大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所浦河支部 平成8年(ワ)39号 判決 1999年8月27日

原告

えりも町漁業協同組合

右代表者代表理事

宮津宏髙

右訴訟代理人弁護士

小野幸治

杉山典彦

被告

吉田正一

外一一名

右被告ら訴訟代理人弁護士

工藤倫

主文

一1  被告小室政一、同草野一郎は、連帯して、原告に対し、金八〇〇〇万円及びこれに対する平成五年九月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員(なお、うち金七〇〇〇万円とこれに対する平成五年九月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員については、相被告菊地恭助、同浜波清蔵と連帯して、また、うち金五〇〇〇万円とこれに対する平成五年九月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員については、相被告吉田正一、同福島弥一郎、同菊地勝彦、同松森長一郎、同上野勝廣、同飯田常雄、同渡部泰と連帯して)を支払え。

2  被告菊地恭助、同浜波清蔵は、連帯して、原告に対し、金七〇〇〇万円及びこれに対する平成五年九月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員(なお、相被告小室政一、同草野一郎とは、連帯して、また、うち金五〇〇〇万円とこれに対する平成五年九月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員については、相被告吉田正一、同福島弥一郎、同菊地勝彦、同松森長一郎、同上野勝廣、同飯田常雄、同渡部泰と連帯して)を支払え。

3  被告吉田正一、同福島弥一郎、同菊地勝彦、同松森長一郎、同上野勝廣、同飯田常雄、同渡部泰は、連帯して、原告に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年九月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員(なお、相被告小室政一、同草野一郎、同菊地恭助、同浜波清蔵とは、連帯して)を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告小室政一、同草野一郎との間においては、原告及び同被告らに生じた費用の各五分の二を同被告らの連帯負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告菊地恭助、同浜波清蔵との間においては、原告及び同被告らに生じた費用の各三分の一を同被告らの連帯負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告吉田正一、同福島弥一郎、同菊地勝彦、同松森長一郎、同上野勝廣、同飯田常雄、同渡部泰との間においては、原告及び同被告らに生じた費用の各四分の一を同被告らの連帯負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告幌岩重喜との間においては、全部原告の負担とする。

事実

第一  請求など

一  訴訟物

1  主位的請求

債務不履行に基づく損害賠償請求(被告草野一郎(以下「被告草野」という。)及び同小室政一(以下「被告小室」という。)を除く被告らは、水産業漁業協同組合法(以下「水協法」という。)三七条に基づき、同草野は、民事上の雇用契約に基づき、同小室は、理事在任中は、水協法三七条に基づき、同在任期間外は、雇用契約に基づき)

2  予備的請求

共同不法行為に基づく損害賠償請求(民法七〇九条、七一九条)

二  請求

1  被告吉田正一(以下「被告吉田」という。)、同福島弥一郎(以下「被告福島」という。)、同菊地勝彦(以下「被告菊地勝彦」という。)、同松森長一郎(以下「被告松森」という。)、同上野勝廣(以下「被告上野」という。)、同飯田常雄(以下「被告飯田」という。)、同幌岩重喜((以下「被告幌岩」という。)、同小室政一(以下「被告小室」という。)、同菊地恭助(以下「被告菊地恭助」という。)、同浜波清蔵(以下「被告浜波」という。)、同渡部泰(以下「被告渡部」という。)は、各自、原告に対し、金二億円及びこれに対する平成五年九月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告草野は、原告に対し、金二億円及びこれに対する平成五年九月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

第二  主張など

一  当事者間に争いのない事実及び証拠(甲一の1ないし5、二ないし一〇、一二・一三の各1、2、一四、一五の1、2、一六ないし一八、一九の1ないし24、二〇・二一の各1ないし22、二二・二三の各1ないし20、二四の1ないし22、二五、二七、三〇、三一、三八の1ないし17、三九の1ないし20、四〇・四一の各1、2、四二、四三、五五の1、2、五六、七二ないし七四、七六、七七の1ないし17、証人北村和也、同大高耕二、同谷家正法、同田村博司、同川村仁、被告小室、同草野、同吉田、同菊地勝彦、同菊地恭助)により容易に認められる事実(以下、以上の事実を合わせて「争いのない事実など」という。)。

1  当事者など

(一) 原告は、水協法に基づき、組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付などの事業を行うことを目的として昭和四一年四月四日に設立された漁業協同組合である(甲五、六)。

(二)(1) 原告の理事ないし監事であった被告ら(但し、同小室を除く。)は、原告の組合員であって、別紙役員表一記載の地位、期間、その地位にあった。

(2) 被告小室及び同草野は、別紙役員表二記載の地位、期間、その地位にあった。

(三) 有限会社丸米佐藤興産(以下「佐藤興産」という。)(昭和四七年四月一四日設立)、有限会社襟裳興産(以下「襟裳興産」という。)(昭和五三年三月四日設立)は、原告の準組合員(甲一の1・定款(以下、単に「定款」という。)八条二項)である(甲七、八)。

2  原告役員の職務権限など

(一) 役員は、法令、法令に基づいて行われる行政庁の処分、原告の定款、規約、総会の議決などを遵守し、原告のため忠実にその職務を遂行しなければならない(定款三二条一項)。

(二) 組合長(代表理事)は、理事の中から理事会の決議で一人が選任され、原告を代表し、原告の業務を統括し(定款三〇条二項)、原告のため忠実にその職務を遂行すべき義務(水協法三七条一項)を有し、その義務の一環として理事、監事などの役員及び参事、会計主任などの職員の業務遂行に対する監視義務を負う。組合長は、非常勤であって、同人が直接、貸付業務に関与するのは、専務理事設置前は、参事から上げられてくる案件を、同理事設置後は、同理事から上げられてくる案件に対する決済をするときだけである。同案件のうち、組合長の決裁権限内のものであれば、自ら決済し、理事会の承認を要するものであれば、更に、理事会に議案として上程し、採決に委ねる。

(三) 専務理事を除く理事は、非常勤であって、原告のため忠実にその職務を行うべき義務(水協法三七条一項)を有し、理事会の構成員として組合長や専務理事ら役員及び会計主任をはじめとする職員の業務執行を監督すべき注意義務がある。専務理事を除く理事が貸付業務に直接関与するのは、理事会においてそれに関する議決権の行使をするときである。

なお、理事会は、概ね月一回程度の割合で召集されている。

(四) 専務理事は、平成二年度の理事会において設置が決定された常勤の理事であって、原告のため忠実にその職務を行うべき義務(水協法三七条一項)を有し、理事会の構成員として組合長ら役員及び会計主任をはじめとする職員の業務執行を監督すべき注意義務がある。

(五) 監事は、原告のため忠実にその職務を行うべき義務(水協法四四条、三七条一項)を有し、少なくとも、毎事業年度に二回、原告の財産及び業務執行の状況を監査しなければならず(定款三二条一項)、その監査結果について、総会又は総代会及び理事会に報告し、意見を述べなければならない(定款同条二項)。ところで、監査は、実際には、定期に年四回(毎四半期ごとに)実施され、その他監事が必要と認める場合は、臨時で行うこととされていた(甲二五・監査細則八条)が、そこで行う監査の内容は、監事が協議してその都度、会計監査にするか、業務監査にするかなど決定していた。

監事は、監査に当たって、理事に対し、帳票、統計表、書類及び物件の提示又は調書の作成を求めることができる(同細則六条)し、また、職員に対し、監査対象と関係のある簿冊を持ってこさせてこれを点検したり、必要があれば、職員に説明を求めたりすることができる(同細則九条)。

監事は、監査結果については、報告書を作成し(同細則一〇条)、組合長に報告するほか、監査簿を設け、監査の顛末及び監査の結果に対する監事の意見を記録し、これを理事に提出するものとされ、定期検査については、意見書を作って理事会に提出して意見を述べることができることとなっていた(同細則九条)。

(六) 信用部長、会計主任及び参事(水協法四五条参照)は、雇用契約に基づきその職務執行を行うにつき、善良な管理者の注意義務を有する。

3  原告の貸付手続きなど

(一) 原告の組合員及び準組合員(以下、両者を合わせて「組合員ら」という。)に対する信用供与の最高限度額は、原告の定款三八条四号により、総会(定款第五章の二による総会に代わるべきものとして総代会の設置が定められている)の議決事項とされている(甲一の1ないし5)。

(二) 原告においては、毎年総代会において右信用供与の最高限度額を議案として掲げ、総代会の決議を経たうえで、その年の四月一日あるいは五月の一日から新規定を執行している。

なお、平成三年四月一日からは、組合員らに対する貸付最高限度額が一億円となった(平成三年三月二八日に開催された平成二年度第一回臨時総代会で決議された。)が、同年三月三一日以前のそれは、八〇〇〇万円であった(甲三、一二・一三の各1、2、一四)

(三) 組合員らに対する信用供与限度額は、右貸付限度額の範囲内で、当該組合員の出資金及び定期性貯金の合計額の一〇倍又は過去三カ年の平均出荷高のいずれか高い額の範囲内である。なお、定期性貯金を担保とした貸付については、その貯金とともに右の計算から除外される(甲二・貸付規定九条)。

定期性貯金を担保とする貸付で担保となる貯金であるが、貯金担保貸付の場合、備荒貯金と養老貯金で、定期見返貸付の場合、定期貯金で、定期積金貸付の場合、定期積金で、同各貸付額は、それぞれ担保となる貯金の総額の範囲内に限定されている。

なお、これらの貯金は、通帳に記載されるので、同各貯金を担保として貸付をする場合には、その記載のある通帳を原告が徴して預かることになる(甲二・貸付規定二六条(1)号)。

(四) 右貸付最高限度額を超える貸付は、理事会の承認を得なければならない(甲二・貸付規定一〇条)。

(五) 貯金を担保とする貸付以外の貸付で、一回の貸付額(手形貸付、証書貸付の場合)が五〇〇万円以上の場合には、理事会の決議が必要とされ、理事会でその承認をした後、総代会に報告することになっている(甲四・職制規定)。

(六) 組合員らが原告に融資の申込みをする場合、通常、まず初めに原告の信用部に金額などの必要事項を記載した借入申込書を提出しなければならない。同申込書が提出された後、原告においては、信用部の担当者が担保となる定期性預金の額がどれくらいあるか、当該申込者の貸付の状況がどうなっているかなどの必要事項をそれに記入し、限度額などの問題がない場合にはその申込額に応じて職制規定に基づき理事会などの禀議に回し、その承認を経て融資を実行することになる(甲四、一五の1、一六)。

ところで、理事会の承認を要する貸付の禀議は、担当者、信用部長、会計主任、参事、専務理事の順に上がり、組合長から理事会の議案として同会の採決に委ねられる(但し、専務理事の関与は、それが設置された以降)。

4  常例検査など

(一) 昭和五八年度以降における原告理事会の議事録には、理事会の開催日、理事・監事の出・欠席者名及び常例検査の結果などに関する記載がある(なお、昭和五八年以降平成五年までに開催された理事会における理事・監事らの出欠状況であるが、連続して欠席したり、また、長期にわたって欠席をした理事、監事はいない。)なお、昭和六三年度におけるその出・欠状況は、別紙理事会出欠表記載のとおりである(甲二七)。

ところで、北海道水産部水産経営課及び北海道日高支庁経済部水産課(以下、両方を合わせて「道」という。)は、水協法一二三条四項に基づいて原告に対する常例検査を行ってきたところ、昭和五八年以降、別紙常例検査表記載のとおり固定化債権の増加などについて指摘している(甲二七、七二)。しかし、右理事会議事録には、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付の可否及び貸付金の処理などに関し、平成五年五月ころまで、原告の理事会で議案として付議されたとの記載はない(甲二七、七二)。

(二) 道は、原告に対する平成五年度の常例検査(平成五年一〇月二五日から同月二九日まで実施)を行った。原告は、同検査に基づき道から以下のとおりの指摘を受けた(甲九、一〇)。

(1) 右検査に関与した検査官の講評の中で平成五年一〇月三〇日、佐藤興産に対する貸付額が貯金担保を除いても二億円を超えるものとなることが指摘された。

(2) 平成六年一月六日付け北海道水産部長名義の常例検査書では、以下のとおりのことが記載されている。

① 総代会で議決した「一組合員に対する貸付金の最高限度」(組合員一億円、員外三〇〇万円)に反し、組合員三名、員外者三名に対し、その限度を無視して大幅な貸付超過を行っていることは、その理由や経過の如何にかかわらず、組合員に対する背信行為と言わざるを得ない。現にこれらの債権の多くは、償還が遅延しており、組合への損害額も少なくない。組合員の経営内容を考慮しない貸付や無原則な立替え、更には安易な振り替え措置等については、信用供与や事務処理の基本を欠落させているだけでなく、他の健全な組合員の不信を招くものであり、早急に是正しなければならない。

② 佐藤興産のそれについては、①【貸付金などの残高】貸付金一億四五一〇万三〇〇〇円、未収利息二億五三〇〇万九〇〇〇円、立替金九二八五万四〇〇〇円(以上合計四億九〇九六万六〇〇〇円)、②【主な経過】襟裳興産とは、資金の融通関係等を勘案すると、実質的には同一経営体とみなされるが、仮に、別個のものとみても、平成元年時点で一億円を超えている。なお、手形貸付金一二件については、全て「貯金担保貸付金」となっているが、該当する「貯金」は保有していない。

③ 限度額を超えるに至ったのは、単に事務的な不注意から一時的に超えたものではなく、前後の状況から判断すると、暗黙裏にそれを容認したものと認識される。佐藤興産に対する貸付についても、佐藤漁業部から菱栄協栄水産への債権移行の経過をみても、貸付金限度の管理が非常に便宜的に扱われ、「経営体を分離すれば、限度が二倍になる」(平成五年五月一九日役員協議会資料「佐藤興産と襟裳興産を合わせて限度二億円」)かのような取り扱いをしていることは、総代会で貸付限度額を定める趣旨に反するものであり、こうした考え方が、「結果として限度を超えた」というより、「超えることもやむを得ない」と理事会が判断したとみなされる根拠となりうるものである。

④ 一組合員に対する貸付金の最高限度を総代会で定める意義は、危険分散及び事業利益上の機会均等などの確保などを目的とするものであり、これを超えて資金の貸付を行った場合、その貸付が回収不能をまたないで、その貸付をしたというだけで背任罪が成立するという判例(昭和三六年五月一六日名古屋高裁、昭和一三年一〇月二五日大審院判決)もある。

⑤ 担保がないにもかかわらず、「貯金担保貸付金」と称し、貸付限度額からの控除を図ったり、意図的に内部禀議書の作成を止めるなどの行為は、悪質な不適正貸付隠しともみられるのでその意図や責任の所在を明確にすること。

⑥ 一組合員に対し、約九三〇〇万円にのぼる立替えを実施している例があることは、「異常」の範疇を超えて「不正な信用供与」に限りなく近いものと言わざるを得ない。

⑦ 手形貸付金に先取利息を徴していないもの、定期性貯金貸付で担保を徴していないもの等の不備があるだけでなく、多額の固定化債権が発生している実態にある。

5  佐藤興産、襟裳興産に対する貸付状況など

(一) 貸付状況

(1) 佐藤興産について

原告の佐藤興産に対する貸付金の状況は、別紙(有)丸米佐藤興産貸付金表に記載されたとおりである(甲一七、一九の1ないし24、二〇・二一の各1ないし22、二二・二三の各1ないし20、二四の1ないし22)

なお、原告の佐藤興産に対する貸付額から貯金担保貸付で担保となる備荒貯金の貯金額及び定期見返貸付で担保となる定期貯金の貯金額を差し引いた金額が前記貸付限度額を超えたのは、昭和五八年九月二〇日付けの二〇〇〇万円と一四〇〇万円の二口の貯金担保貸付が実行された時点(なお、同時点の貸付残高は、一億九七〇〇万円(甲一七)で、定期性貯金の総額は、九二四八万一九二四円(甲四二・備荒貯金五二二〇万三七四三円・定期貯金四〇二七万八一八一円であった。但し、関係個人の分を含む。)で、前者から後者を差し引くと一億〇四五一万八〇七六円となる。)からで、それ以降、途切れることなく同限度額(当時は、八〇〇〇万円)を超えている。

(2) 襟裳興産

原告の襟裳興産に対する貸付金の状況は、別紙(有)襟裳興産貸付金表に記載されたとおりである(甲一八、一九の1ないし24、二〇・二一の各1ないし22、二二・二三の各1ないし20、二四の1ないし22)。

なお、原告の襟裳興産に対する貸付額から貯金担保貸付で担保となる備荒貯金の貯金額及び定期見返貸付で担保となる定期貯金の貯金額を差し引いた金額が前記貸付限度額を超えたのは、平成元年一月一七日付けの一五〇〇万円の貯金担保貸付が実行された時点(なお、同時点の貸付残高は、一億八〇八三万円(甲一八)で、定期性貯金の総額は、一億〇〇七八万八二三八円(甲四三・備荒貯金八六〇一万五九五三円・定期貯金一四七七万三二八五円。)で、前者から後者を差し引くと八〇〇四万一七六二円となる。)からで、それ以降、途切れることなく同限度額(当時は、八〇〇〇万円)を超えている。

(二) 貯金の状況

(1) 佐藤興産について

佐藤興産の原告における貯金の状況は、別紙(有)丸米佐藤興産の貯金残高の推移表(以下「佐藤残高推移表」という。)に記載されたとおりである(甲四二)。

右表は、原告の貯金台帳、四半期ごとの貯金残高補助簿一覧表に基づいて作成されている。

(2) 襟裳興産

襟裳興産の原告における貯金の状況は、別紙(有)襟裳興産の貯金残高の推移表(以下「襟裳残高推移表」という。)に記載されたとおりである(甲四三)。

右表は、原告の貯金台帳、四半期ごとの貯金残高補助簿一覧表に基づいて作成されている。

(3) 右各表中の「貯金科目」及び「名義、番号ほか」の各欄に特に名義を記載していないものは、佐藤興産(佐藤残高推移表)、襟裳興産(襟裳残高推移表)名義の各貯金であり、佐藤残高推移表中の定期預金の「貯金科目」ないし「名義、番号ほか」の各欄で、「佐藤巌」とあるのは、佐藤興産及び襟裳興産の経営者であった佐藤巌(以下「佐藤」という。)個人名義の定期預金を、「佐藤英子」とあるのは、佐藤の妻佐藤英子個人名義の定期預金を、「佐藤竜一」とあるのは、佐藤の長男佐藤竜一個人名義の定期預金を、「佐藤英彦」とあるのは、佐藤の次男佐藤英彦個人名義の定期預金を、「佐藤恵美子」とあるのは、佐藤の長女佐藤恵美子個人名義の定期預金を、「駿河徳行」とあるのは、佐藤の義弟駿河徳行個人名義の定期預金を、それぞれ指している。

また、佐藤興産及び襟裳興産は、いずれも法人であるため、貯金担保貸付において担保として取扱われる養老貯金はなかった。

(三) 貸付金と貯金などの状況(各年末時点など)など

(1) 佐藤興産について

① 昭和五九年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

四億一一八〇万円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

三億八五一〇万円(甲三八の14)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

五七〇八万七七九九円(甲四二)

ロ 定期貯金

六四八八万四六〇六円(甲四二)

合計 一億二一九七万二四〇五円

aイからbイ、ロを控除した残金

二億八九八二万七五九五円

aロからbイを控除した残額

三億二八〇一万二二〇一円

② 昭和六〇年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

四億八二四〇万円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

四億五五七〇万円(甲三九の16)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

六三一六万八六八九円(甲四二)

ロ 定期貯金

六六五七万七六四六円(甲四二)

合計 一億二九七四万円六三五五円

aイからbイ、ロを控除した残金

三億五二六五万三六四五円

aロからbイを控除した残額

三億九二五三万一三一一円

③ 昭和六一年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

五億九九三〇万円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

五億六七六〇万円(甲一九の19)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

六九六四万六七六三円(甲四二)

ロ 定期貯金

五二九四万六二六一円(甲四二)

合計 一億三二五九万三〇二四円

aイからbイ、ロを控除した残金

四億七六七〇万六九七六円

aロからbイを控除した残額

四億九七九五万三二三七円

④ 昭和六二年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

六億五〇八〇万円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

五億四五一〇万円(甲二〇の18)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

七八七九万一二一〇円(甲四二)

ロ 定期貯金

五三四六万七〇九六円(甲四二)

合計 一億三二二五万八三〇六円

aイからbイ、ロを控除した残金

五億一八五四万一六九四円

aロからbイを控除した残額

四億六六三〇万八七九〇円

⑤ 昭和六三年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

七億一一八〇万円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

六億〇六一〇万円(甲二一の22)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

八〇八八万七四七六円(甲四二)

ロ 定期貯金

五六九五万九六五二円(甲四二)

合計 一億三七八四万七一二八円

aイからbイ、ロを控除した残金

五億七三九五万二八七二円

aロからbイを控除した残額

五億二五二一万二五二四円

⑥ 平成元年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

七億三七五〇万円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

七億〇八八〇万円(甲二二の11)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

八三一二万九六五五円(甲四二)

ロ 定期貯金

五八六五万〇三八七円(甲四二)

合計 一億四一七八万〇〇四二円

aイからbイ、ロを控除した残金

五億九五七一万九九五八円

aロからbイを控除した残額

六億二五六七万〇三四五円

⑦ 平成二年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

六億五四八〇万円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

六億二六一〇万円(甲二三の20)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

八八万三五六一円

ロ 定期貯金

六〇五〇万三三五八円(甲四二)

合計 六一三八万六九一九円

aイからbイ、ロを控除した残金

五億九三四一万三〇八一円

aロからbイを控除した残額

六億二五二一万六四三九円

⑧ 平成三年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

六億二四八〇万円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

六億二六一〇万円(甲二四の22)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

一〇八万七七五九円(甲四二)

ロ 定期貯金

四五一八万八〇二六円(甲四二)

合計 四六二七万五七八五円

aイからbイ、ロを控除した残金

五億七八五二万四二一五円

aロからbイを控除した残額

六億二五〇一万二二四一円

⑨ 平成四年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

三億六八六九万五七八〇円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

三億三九九九万五七八〇円(甲四一の2)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

一一三万八五九九円(甲四二)

ロ 定期貯金

四七三〇万五九一八円(甲四二)

合計 四八四四万四五一七円

aイからbイ、ロを控除した残金

三億二〇二五万一二六三円

aロからbイを控除した残額

三億三八八五万七一八一円

⑩ 平成五年九月末日時点

aイ 貸付金残高

三億六三六九万五七八〇円(甲一七)

ロ 貯金担保貸付額

三億三四九九万五七八〇円

平成四年一二月三一日以降、三〇〇万円の貯金担保貸付があり、他方、三〇〇万円及び五〇〇万円の弁済があった(甲一七、四二)。

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

八四八円(甲四二)

ロ 定期貯金

九八五万六六二一円(甲四二)

合計 九八五万七四六九円

aイからbイ、ロを控除した残金

三億五三八三万八三一一円

aロからbイを控除した残額

三億三四九九万四九三二円

(2) 襟裳興産について

① 昭和六三年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

一億六五八三万円(甲一八、二一の13、22)

ロ 貯金担保貸付額

一億〇〇三六万円(甲二一の13、22)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

八六〇一万五九五三円(甲四三)

ロ 定期貯金

一四七七万二二八五円(甲四三)

合計 一億〇〇七八万八二三八円

aイからbを控除した残金

六五〇四万一七六二円

aロからbイを控除した残額

一四三四万四〇四七円

② 平成元年六月三〇日時点

aイ 貸付金残高

二億〇九〇三万円(甲一八)

ロ 貯金担保貸付額

一億三五二六万円(甲四〇の1、2)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

八八三四万一六九六円(甲四三)

ロ 定期貯金

一四九八万六五四三円(甲四三)

合計 一億〇三三二万八二三九円

aイからbイ、ロを控除した残金

一億〇五七〇万一七六一円

aロからbイを控除した残額

四六九一万八三〇四円

③ 平成元年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

二億三〇八三万円(甲一八)

ロ 貯金担保貸付額

一億六三七六万円(甲二二の11、19)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

九四六一万七二三三円(甲四三)

ロ 定期貯金

一五一八万四七一九円(甲四三)

合計 一億〇九八〇万一九五二円

aイからbイ、ロを控除した残金

一億二一〇二万八〇四八円

aロからbイを控除した残額

六九一四万二七六七円

④ 平成二年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

二億四三八三万円(甲一八)

ロ 貯金担保貸付額

一億七八二六万円(甲二三の2、20)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

一億〇三八五万二五六四円(甲四三)

ロ 定期貯金

一五六七万六六八九円(甲四三)

合計 一億一九五二万九二五三円

aイからbイ、ロを控除した残金

一億二四三〇万〇七四七円

aロからbイを控除した残額

七四四〇万七四三六円

⑤ 平成三年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

二億九八一〇万円(甲一八)

ロ 貯金担保貸付額

一億九〇一六万円(甲二四の13、22)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

一億一三四八万六九三二円(甲四三)

ロ 定期貯金

一六四二万二四二四円(甲四三)

合計 一億二九九〇万九三五六円

aイからbを控除した残金

一億六八一九万〇六四四円

aロからbイを控除した残額

一億一三四八万六九三二円

⑥ 平成四年一二月三一日時点

aイ 貸付金残高

二億七二二五万円(甲一八)

ロ 貯金担保貸付額

一億四四四六万円(甲四一の1、2)

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

一一三三万二一〇八円(甲四三)

ロ 定期貯金

一七二一万三四八〇円(甲四三)

合計 二八五四万五五八八円

aイからbイ、ロを控除した残金

二億四三七〇万四四一二円

aロからbイを控除した残額

一億三三一二万七八九二円

⑦ 平成五年九月末日時点

aイ 貸付金残高

二億九五九五万円(甲一八)

ロ 貯金担保貸付額

一億六九九六万円

なお、平成四年一二月三一日以降、一三五〇万円、一二〇〇万円の貯金担保貸付があった(甲一九、四三)。

b 定期性貯金 イ 備荒貯金

五三三円

ロ 定期貯金〇円

合計 五三三円

aイからbイ、ロを控除した残金

二億九五九四万九四六七円

aロからbイを控除した残額

一億六九九五万九四六七円

(四) 佐藤興産と襟裳興産の資金の融通状況など

佐藤興産と襟裳興産との原告の預金を通した資金の融通状況は、別紙(有)襟裳興産から(有)丸米佐藤興産への資金融通状況(s55年以降)記載のとおりである(甲三〇、三一)。

(五) 佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付金が一回に月五〇〇万円を超える場合(但し、貯金担保貸付以外及び貯金担保貸付名目であったとしても、その担保がない場合)は、頻回にわたる(甲一七、一八)。

6  その他

(一) 平成六年六月の臨時総代会で、被告吉田ら当時の役員が総辞職したこと、平成七年三月二二日の臨時総会において、原告の固定化した債権の回収案を含めて再建計画が承認され、同年四月一日から同計画が実施されることになった(甲五三)。

(二) 原告は、平成五年九月末日以降、後記のとおり佐藤興産から①原告に対する貯金による相殺により三一九二万三二一一円の、②原告に対する出資金(襟裳興産分を含む。)との相殺により二〇〇〇万円の、③船の売却金のうちから三〇〇〇万円の、④減船保証金分のうちから五〇〇万円の、⑤スクラップ代金のうちから二五〇〇万円の弁済をそれぞれ受けている。また、襟裳興産から貯金による相殺に基づき三七二六万五八九〇円の弁済を受けている。

(三) 原告の佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付金の未収利息の推移は、別紙手形貸付金未収利息の推移記載のとおりである(甲七三)。

なお、原告の佐藤興産及び襟裳興産に対する手形貸付は、書替を繰返しているものが多く、その場合の遅延損害金(未収利息)の利率は、当該手形書替日に原告が設定している利率が適用されていた。

(四) 原告構成員らのさけ定置漁業における漁獲数量・水揚金額・単価、そして、襟裳興産の漁獲数量・水揚金額・単価は、別紙さけ定置漁業における魚価の推移記載のとおりである(甲七四)。

(五) 原告は、平成一一年六月三日現在、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付金債権を担保するため、別紙物件目録記載の土地(以下「英子土地」という。)を除いて別紙担保設定状況一覧表記載のとおりの担保を取得しているところ、同各土地、建物、船舶については、北海道信用漁業協同組合連合会(以下「しんれん」という。)が先順位の担保権(極度額八〇〇〇万円または一億円の根抵当権)を取得している(甲七六、七七の1ないし17)。

なお、原告は、佐藤所有にかかる北海道幌泉郡えりも町字東洋三〇七番一の土地(雑種地三四五平方メートル)、同番二の土地(雑種地七六平方メートル)について担保権を取得していないが、しんれんが極度額二〇〇〇万円の根抵当権を取得している(甲七六、七七の1ないし17)。

(六) 原告は、被告のうち、被告吉田、同小室、同草野を札幌地方検察庁に背任罪で告訴したが、平成九年三月、同三名はいずれも不起訴となった。

二  主要な争点

1  原告の佐藤興産、襟裳興産に対する貸付に対し、被告らに任務の懈怠(注意義務違反又は過失)(水協法三七条、民法四一五条、七〇九条、七一九条)があったか。

(原告の主張)

(一) 佐藤興産と襟裳興産は、いずれも佐藤が代表者として経営していたものであって、しかも、襟裳興産から佐藤興産に対し、前記争いのない事実など5(四)記載のとおり頻繁に資金流用が行われている(原告が保管する両者の原告に対する貯金の元帳で明らかである。)(甲三〇、三一)うえ、佐藤興産の決算書(平成二年度)に襟裳興産からの借入金の記載がない(甲四九)ことからすると、両者に対する貸付は、実質的には、一体のものと考えられるべきである。このことは、昭和六三年七月一日を基準日とする常例検査でも、両社の実名を挙げていないが、「う回貸付」の存在が指摘され(甲二七)、また、平成五年の同検査においても、「経営体を分離すれば限度が二倍になる」かのような取扱いをしていることは、役員会で限度額を定める趣旨に反すると指摘している(甲九の7、8頁)ことからも明らかである。

したがって、両社に対する貸付については、その貸付限度額に反していることは明らかである。

(二) 原告は、佐藤興産及び襟裳興産に対し、以下のとおりの不正な貸付を行ってきた。

(1) 貸付限度額を超える限度超過貸付が行われていた。

(2) 貯金担保貸付の担保に相当する備荒貯金が存在していなかったにもかかわらず、あたかも貯金担保貸付額以上の備荒貯金が存在するかのようにして貯金担保貸付の形式で貸付がなされてきた。

(3) 五〇〇万円を超える証証貸付や手形貸付を行う場合(前記5(五))、①一回の貸付金額が五〇〇万円を超えるもの、②短期間のうちに繰返されたもので二口以上に分散しているが、実質的には一体の貸付で、その合計額が五〇〇万円を超えるもの、例えば、襟裳興産に対しては、昭和五九年一月三一日、信用資金貸付として、五〇〇万円、三〇〇万円、二七〇万円、三〇万円の四口の貸付が行われているものなどには、理事会の承認を得る必要があるにもかかわらず、理事会の承認を得ないまま貸付が実施された。

(三) 昭和六三年、信用部の職員であった北村和也(以下「北村」という。)が佐藤興産からの貯金担保による貸付の申込みがあった際、当時、佐藤興産の担保となる貯金額が不足し、貸付額が既に貸付限度額を超えていたことから、融資実行に問題があると被告草野に指摘したところ、業務命令だから融資してくれと言われてその貸付が行われたこともあり、その後の佐藤興産に対する貸付についても、同草野から担保となる貯金が不足しているにもかかわらず、「貯金担保貸付」と指示されたこともあった。そのような態様で貸付が実行された場合には、貸付実行後に原告の担当者が借入申込書に借入金額とともに定期性貯金の金額などを適当に記載し、外形上貸付が問題なく行われたような体裁が作られていた。また、佐藤興産に対する立替金の支払催告についても、同草野によって、うやむやにされ、それがその後の立替金の増大の原因となった。

平成元年一一月三〇日、佐藤が佐藤興産に対する二〇〇〇万円の融資を依頼してきた際、当時の大高信用部長は、当時存在した佐藤興産に対する多額の過剰貸付とともにその申込金額が大きく、そして、同依頼が急であったことから、同依頼を拒絶したところ、佐藤は、直接、被告小室及び同草野と交渉した。その結果、同小室から同信用部長に対し、同依頼に応じるよう指示したことがあった(甲五五の1、2)。

佐藤興産及び襟裳興産に対する限度超過貸付などの不正貸付は、被告小室及び同草野の右のような明示ないし黙示の指示によって繰返された。

(四)(1) 被告吉田は、組合長(代表理事)として、前記争いのない事実など2(二)のような責務及び権限を有していたところ、少なくとも佐藤興産及び襟裳興産に対する右主要な争点1(二)(1)(2)のような貸付があったところ、被告小室からの報告によりそのような不正貸付が生じて間もないころ不正貸付を認識、あるいは、それを看過し、また、同(3)のような貸付の場合、組合長として理事会の承認を得るため議題として上程しなければならないのに、そのような貸付であることを看過し、議題として理事会に上程しなかった。特に、被告小室を専務理事として就任させた平成三年五月一三日以降は、同被告の業務執行行為について報告を求め、十分な打ち合わせをしたうえ、同被告に対し、指示・監督すべきであったのに、それを怠った。被告吉田は、このような任務懈怠の結果、原告に後記二2(三)(1)(2)のとおりの回収不可能な貸付金債権、未収利息債権を発生させ、同金額担当の損害を原告に被らせた。

(2) 被告福島、同菊地勝彦、同松森、同上野、同飯田、同幌岩は、理事として、前記争いのない事実など2(三)のとおりの責務及び権限を有していたのところ、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付内容は、他の組合員らに比べると、長期にわたって抜きんでた存在であって、原告の貸付業務に対し、前記常例検査において債権管理の強化、固定債権の累積化という問題が指摘されていたこと、そして、年度毎に作成される業務報告書の内容を議論・承認する際に固定化債権の内容や未収利息金の内容をチェックすることができたことからすると、両社に対する右二1(二)(1)ないし(3)の違法貸付が行われた当初から違法貸付の事実を知ることができた。遅くとも、違法貸付の事実を昭和五九年度の常例検査の際にはそれを認識できたはずである。そして、その際、両社に対する貸付が適正に行われているか、チェックし、その対応策について協議すべきであった。特に、平成三年度(第二七事業年度)の『業務報告書』(甲五四)には、通常の貸付において生じる筈のない未収利息が総額で六億二二七八万七五四五円も生じていること(なお、そのほとんどが佐藤興産及び襟裳興産であった。)が記載されていたのであるから、その時点で両社に対する異常な貸付内容に気づいたうえで適切な措置を取るべきであった。それにもかかわらず、同被告らは、その具体的対処を怠り、その結果、佐藤興産及び襟裳興産に対する多数回かつ多額の不正な限度超過貸付を看過した。同被告らは、このような任務懈怠の結果、原告に後記二2(三)(1)(2)のとおりの回収不可能な貸付金債権、未収利息債権を発生させ、同金額相当の損害を原告に被らせた。

(3) 被告菊地恭助、同浜波、同渡部は、監事として前記争いのない事実など2(五)のとおりの責務及び権限を有していたところ、四半期毎に行われる定期監査において手形貸付補助簿残高明細表などの会計書類を精査することによって佐藤興産に対する貸付業務が適正に行われていたかどうか、監査し、その結果、佐藤興産及び襟裳興産に対する右二1(二)(1)ないし(3)のような違法貸付が生じて間もない時期にその事実を知り、あるいは、知ることができたにもかかわらず、それを看過した。特に、平成三年度(第二七事業年度)の『業務報告書』(甲五四)には、通常の貸付において生じる筈のない未収利息が総額で六億二二七八万七五四五円も生じていること(なお、そのほとんどが佐藤興産及び襟裳興産であった。)が記載されていたのであるから、その時点で両社に対する異常な貸付内容に気づいたうえで適切な措置を取るべきであった。同被告らは、このような任務懈怠の結果、原告に後記二2(三)(1)(2)のとおりの回収不可能な貸付金債権、未収利息債権を発生させ、同金額相当の損害を原告に被らせた。

(4) 被告小室及び同草野は、信用部長、会計主任、参事、専務理事(但し、同小室のみ)などとして原告の貸付業務の執行などにおいても善良なる管理者の注意義務を尽くすべきであったのに、右二1(三)(四)のとおりの態様で佐藤興産及び襟裳興産に対する同(二)(1)ないし(3)の不正貸付に直接関与したものである。このような任務懈怠の結果、原告に後記二2(三)(1)のとおりの回収不可能な貸付金債権、未収利息債権を発生させ、同金額相当の損害を原告に被らせた。

(五) ところで、原告が佐藤興産及び襟裳興産に対する未収利息や立替金を貸付金に振替えたのは、以下のとおりである(甲三二)。

佐藤興産については、未収利息分として四三九万四七八一円、立替金として一五二三万一二四六円(合計一九六二万六〇二七円)であり、襟裳興産については、未収利息分として五八九万五八二四円、立替金として一七六〇万四三七五円(合計二三五〇万〇一九九円)に過ぎない。

(被告の主張)

(一) 佐藤興産と襟裳興産は、別個独立の存在で、いずれも定置網の漁業を有する優良な企業であって、原告の事業を支える有力組合員であった。襟裳興産は、佐藤興産の原告における貸付限度額の制約を免れるため設立されたものではなく、その設立当時、佐藤興産は、隆盛を極めていたうえ、当時の北海道の方針にしたがって、定置網漁の免許を取得するため設立された。襟裳興産は、その設立の目的にしたがって、北海道から定置網の免許を取得している。

したがって、両社は、一体でなく、それぞれが独立し、襟裳興産は、原告からの貸付を分散化させるため、設立されたものでない。

(二)(1) 原告の佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付には、不正なものがない。

ところで、佐藤興産に対する貸付手続が時として原告において定められた手続規定に違反することはあったが、それは、決裁規定による決裁手続きを経ている暇がない場合などであって、佐藤興産及び襟裳興産のためではなく、原告ないし原告組合員のためであった。

(2) また、組合員らに対する貸付の中で、貯金担保貸付は、貸付限度の制約がなく、また、貸付利息、立替金、仮渡金などもその制約を受けない。原告が主張する佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付の中には、多額の未収利息、立替金、仮渡金などから貸付金に振替えられたものが多数含まれている。したがって、両社に対する貸付金が、貸付限度額を超えているのか、問題がある。

(三) 被告小室、同草野は、

(1) 佐藤興産に対する貸付において、その貸付額が限度額を超えていることやその担保となる貯金が不足していることを知ったのは、昭和六三年末から平成元年初めにかけてのころであり、襟裳興産に対するそれらを知ったのは、佐藤興産に対する右のような事情を知った後、半年から一年後くらいである。右のように時期を具体的に特定できないのは、それ以前から原告においては、貸付限度額についてそれにこだわらない事務の流があったためであり、襟裳興産に対する認識が右のように遅れたのは、同社が貯金も多くあり、佐藤興産に比してかなり優良との認識があったためである。また、佐藤興産及び襟裳興産に対する一回の貸付で五〇〇万円を超える貸付について、理事会の承認を得ていないことを知ったのは、その当初からである。右理事会の承認を得なかったのは、理事会を軽視したからではなく、月一・二回しか開催されない理事会を待つ暇もない融資申込みが多く、そのような場合に、同承認を得なかったことから事務の流自体もそのようになった。

被告小室、同草野には、その貸付限度額を超えた貸付、そして、その担保となる貯金が不足した貸付、理事会の承認を経ていない貸付について、その責任はない。

(2) 信用部の担当者に対し、正規の手続きを経ないで佐藤興産や襟裳興産に対する貸付を実行するよう指示したことはない。

(四)(1)① 被告吉田、同福島、同菊地勝彦、同松森、同上野、同飯田、同幌岩らは、いずれも非常勤の理事であって、いずれも平成五年五月一九日開催の役員協議会の席上、監事が佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付が限度額を超えているとの報告をしたことから、その事実を知ったに過ぎない。また、両社に対する貯金担保貸付において、その担保となる貯金が不足していること及び一回の貸付で五〇〇万円を超える貸付につき、理事会の承認を得ていないことを知ったのも同役員協議会後間もないころである。

② 被告菊地恭助、同浜波、同渡部は、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付が限度額を超えていることを知ったのは、平成五年四月に平成四年度の年度末の会計監査をした際である。また、両社に対する貯金担保貸付において、その担保となる貯金が不足していること及び一回の貸付で五〇〇万円を超える貸付につき、理事会の承認を得ていないことを知ったのも同役員協議会後間もないころである。

(2) 被告小室及び同草野以外の被告らは、平成五年五月一九日開催の役員協議会の時点においても佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付状況が必ずしも判然としていなかったため、その確認作業を進めることとした。被告小室及び同草野以外の被告らは、いずれも非常勤であって、理事会が召集されたときなど限られた機会に提案された事項を審議するのみであるから、特段の徴候でもない限り、自ら積極的に貸付業務などを調査することは不可能である。したがって、被告小室、同草野以外の被告らには、佐藤興産及び襟裳興産に対する限度超過貸付や貯金担保となる貯金のない貯金担保貸付、五〇〇万円を超える貸付について理事会の承認を経ていないことなどについて知らなかったとしても、そのことについて帰責性がない。

また、平成五年度の常例検査以前における同検査において、債権の固定化に関する指摘があるが、それは、北海道全体の原告と同種の組合に対する検査の中での決まり文句で、機械的に記載されていたものに過ぎず、特定の組合員に対する貸付を問題としたものでない。したがって、被告小室、同草野以外の被告らが常例検査における右のような指摘から危機感を抱くことを期待することは、不可能なことを強いるものである。

被告小室、同草野以外の被告らは、右役員協議会後、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付状況の調査を進めるとともに具体的な組合員を挙げて債権固定化の指摘を受けた平成五年度の常例検査があった時、速やかに対応し、前記当事者間に争いのない事実など6(一)の再建計画を練り上げ、その実行をしている。

そして、佐藤興産及び襟裳興産が優良な定置網の漁場を有する有力な組合員で、その業務内容に格別問題もなかったことからすれば、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付回数が多く、仮に、被告小室、同草野以外の被告らが手形貸付金補助簿残高明細表を見る機会があったとしても、両社に対する貸付に不審を抱く契機とはなり得ない。

2  原告の損害発生の有無及び仮に発生していた場合におけるその額について

(原告の主張)

(一) 原告の平成五年三月三〇日当時における佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付残額などは以下のとおりである。

(1) 佐藤興産(甲三六の1、2)

①a 定期見返貸付金二八七〇万円

b 貯金担保貸付金

三億三九九九万五七八〇円

右a、bの合計 三億六八六九万五七八〇円

② 貸付金の未収利息

二億五三〇〇万九二九二円

③ 立替金 八二九〇万〇四五九円

右①、②の合計 六億二一七〇万五〇七二円

右①、②、③の合計 七億〇四六〇万五五三一円

(2) 襟裳興産

①a 定期見返貸付金二三五七万円

b 貯金担保貸付金

一億六九九六万円

c 着業資金貸付金八七四二万円

d 信用資金貸付金一五〇〇万円

右aないしdの合計 二億九五九五万円

② 貸付金の未収利息

六八三一万三一二〇円

③ 右①、②の合計

三億六四二六万三一二〇円

(二) 佐藤興産及び襟裳興産からの回収状況

(1) 佐藤興産

① 貯金などによるもの

a 佐藤興産の原告に対する以下の貯金債権との相殺(平成五年九月三〇日付け)

ア 定期預金六本

合計三〇七四万八二一一円

イ 備荒貯金 一一七万五〇〇〇円右ア、イの合計 三一九二万三二一一円

b 佐藤興産及び襟裳興産の原告に対する以下の各出資金債権との相殺

佐藤興産及び襟裳興産の原告に対する各一〇〇〇万円の出資金

c 漁船売却代金三〇〇〇万円の債権による弁済充当(平成五年九月三〇日付け)

佐藤興産が所有していた漁船一艘を北島漁業に売却した代金のうち、三〇〇〇万円の債権について、それを対当額で原告の前記貸付金債権に弁済充当した。

d 減船補償金五〇〇万円の弁済充当(平成五年九月三日付け)

減船補償金五〇〇万円を、原告の佐藤興産に対する昭和六二年五月一五日付け手形貸付金債権の弁済に充当した。

e スクラップ代金による弁済

スクラップ代金のうち、平成五年九月三〇日入金分一八六七万円のうち、一八〇〇万円及び同年一二月二一日入金分九三三万五〇〇〇円のうち七〇〇〇万円の合計二五〇〇万円をもって前記貸付金の弁済に充当された。

f 右aないしeの合計

一億一一九二万三二一一円

② 弁済

原告は、佐藤興産から平成八年三月二九日付けで二九三万四〇〇〇円の弁済を受けた。

③ 右①、②の合計

一億一四八五万七二一一円

(2) 襟裳興産

回収分

① 襟裳興産などの原告に対する以下の貯金債権との相殺(平成五年九月三〇日付け)

a 備荒貯金一一八六万九〇〇〇円

b 定期預金二本・代表取締役佐藤巌名義の定期貯金一本、佐藤英子名義の定期貯金一本、駿河徳行名義の定期貯金一本 合計二五四二万六八九〇円

c 右a、bの合計のうち三七二六万五八九〇円

② 弁済

原告は、佐藤興産から平成八年三月一三日付けで四一五万五〇〇〇円、同一〇年三月三一日付けで三〇二万六五八三円の合計七一八万一五八三円の弁済を受けた。

③ 右①c、②の合計

四四四四万七四七三円

(三) 損害額

(1)① 佐藤興産に対する以下の債権は、いずれも回収が困難な債権であるところ、原告は、佐藤興産との関係で、同債権額に相当する損害を被っている。

a 貸付金残

右二2(一)(1)①で記載した三億六八六九万五七八〇円から同(二)(1)③で記載した一億一四八五万七二一一円を控除した額 二億五三八三万八五六九円

b 貸付金の未収利息

二億五三〇〇万九二九二円

右a、bの合計 五億〇六八四万七八六一円

② 襟裳興産に対する以下の債権は、いずれも回収が困難な債権であるところ、原告は、襟裳興産との関係で同債権額に相当する損害を被っている。

a 貸付金残

同(一)(2)①で記載した二億九五九五万円から同(二)(2)③で記載した四四四四万七四七三円を控除した額

二億五一五〇万二五二七円

b 貸付金の未収利息

六八三一万三一二〇円

右a、bの合計 三億一九八一万五六四七円

③ 右a、bを合わせた損害額合計

八億二六六六万三五〇八円

(2) 仮に、被告吉田、同小室を除く理事であった被告らは、佐藤興産らに対する貸付限度超過貸付などの不法貸付の事実をその超過当初から知らなかったとしても、遅くとも昭和五九年度の常例検査で佐藤興産に対する不正貸付の事実を認識しうべきであったから、その時点以降適切な対処をしていたとしたら以下のとおりの損害が生じなかったものである。なお、佐藤興産と襟裳興産とは、実質的には一体ないし関連性が緊密であるから、佐藤興産に対する不正貸付が判明した時点以降、襟裳興産に対する貸付についても監視・監督を行うべきであったところ、同監視などが行われたとしたら、襟裳興産に対する不正貸付は生じなかった。

① 佐藤興産

昭和五九年度末時点(昭和六〇年三月三一日時点)における貸付金及び未収利息金残高

a 貸付金残高

四億一六一〇万円(甲一七)

b 未収利息金残高

四六二七万九五三三円(甲七三)

c 右a、bの合計

四億六二三七万九五三三円

② 襟裳興産

昭和五九年度末時点(昭和六〇年三月三一日時点)における貸付金及び未収利息金残高

a 貸付金残高

二七四〇万円(甲一八)

b 未収利息金残高

三二三三万七〇四七円

c 右a、bの合計

五九七三万七〇四七円

③ 右①、②の合計

五億二二一一万六五八〇円

④ 平成五年三月三一日当時の佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付金及び未収利息金残高合計(九億八五九六万八一九二円)から右③の金額を控除した四億六三八五万一六一二円相当の損害が拡大した。

⑤ 右四億六三八五万一六一二円から前記弁済を受けた一億一四八五万七二一一円及び四四四四万七四七三円を控除した三億〇四五四万六九二八円が損害として残っている。

(被告らの主張)

原告主張のような損害が発生していないことは、以下のことから明らかである。

(一) 佐藤興産及び襟裳興産は、いずれも事業を廃止していないうえ、現在もなお、えりも町内で事業を展開し、原告に対してもその弁済を継続している。

被告吉田ら平成五年当時の原告の理事らは、同年度の前記常例検査を契機として、北海道水産部や北海道指導漁業協同組合連合会などの行政機関などの指導と承認のもと、右両社からの回収計画のみでなく、原告全体の再建計画を策定し、同計画は、後任者に引き継がれ、平成七年三月二二日開催の臨時総会において、可決され、同年四月一日から実施されている。

右再建計画案における右両社に対する回収計画の内容は、①協力担保を徴すること、②代物弁済を受けられるものは受けること、③襟裳興産の借受金債務については、同興産を引き継いだ定置網の構成員(同社の社員)が同債務の一部を同興産に代わって負担することとなっているところ、いずれも実行に移されている。

(二) 右回収計画は、以下のとおり実行されている(以下のうち、(1)の①ないし⑤及び(2)で記載された事実は、前記したとおり当事者間に争いがない。)。

(1) 佐藤興産に対する貸付金債権の回収内容(三億六八六九万五七八〇円のうち、一億五〇九二万三二一一円)

① 貯金による相殺

三一九二万三二一一円

② 出資金による相殺二〇〇〇万円

③ 船の売却金からの弁済

三〇〇〇万円

④ 減船保証金分からの弁済

五〇〇万円

⑤ スクラップ代金からの弁済

二五〇〇万円

⑥ 別紙ガソリンスタンド(以下「本件ガソリンスタンド」という。)の営業権分からの弁済 三〇〇〇万円

既に代物弁済済みであるが、法規制のため、原告名義に変更することが困難なことから、佐藤興産名義のままで原告から同社に貸し付けている(甲四六)。

⑦ 英子土地の代物弁済(甲四七、四八、七七の14、15) 九〇〇万円

当時の時価で評価して、既に原告に代物弁済済みである。

(2) 襟裳興産に対する貸付金債権の回収内容(二億九五九五万円のうち、三七二九万五八九〇円)

貯金による相殺

三七二九万五八九〇円

(3) 襟裳興産を引き継いだ駿河秀雄(以下「駿河」という。)らからの弁済(甲三七の1ないし11)

佐藤興産に対する残額二億一七七七万二五六九円のうち、一億一八〇〇万円及び襟裳興産に対する残額二億五八六八万四一一〇円のうち、一億六二〇〇万円の合計二億八〇〇〇万円について、襟裳興産の新代表者である駿河を含む同社の構成員一一名が原告から右弁済予定の債務額相当の金額を借入、同借入金をもって両社の同債務額に相当する債務の弁済をした。

(4) 右のような結果、多くとも原告の佐藤興産に対する貸付金残高は、九九七七万二五六九円、襟裳興産に対する貸付金残高は、九六六八万四一一〇円となった。

右両社に対する実質的貸付額は、いずれも貸付限度額以下となっているうえ、同貸付残額についても、事業を継続している両社から回収が可能である。

(原告の被告らの主張に対する応答)

(一) 平成七年三月二二日開催の臨時総会において、佐藤興産及び襟裳興産に対する債権回収計画を含む原告全体の再建計画は、可決され、同年四月一日から実施されているが、両社からの回収計画という個別の問題が同総会の議題に上がって承認されたことはない。

被告の弁済などの主張のうち、右(1)の①ないし⑤及び(2)の事実は、認め、その余は、否認する。

(二)① 駿河らの原告からの借入による弁済であるが、その原因関係(佐藤興産から襟裳興産への漁船などの譲渡)はなく、同人らは、被告小室、同草野及び佐藤から「名義を貸して欲しい。形式的には借り主になるが、返済は、利息分も含めて佐藤興産及び襟裳興産が責任を持つ。」など言われたこともあって、その名義人となったに過ぎず、本来、自分で債務を負担する意思はなく、現在も原告からの借入を原因とする債務確認に応じていない。したがって、原告が駿河らにその取立てをしても、同借入が錯誤で無効であると主張される可能性が高い。しかも、駿河らは、支払能力もない。

② 本件ガソリンスタンドの営業権は、原告と佐藤興産の間でそれを三〇〇〇万円と評価して譲渡担保権が設定され、同三〇〇〇万円について、平成六年三月に同七年三月から同二二年三月まで、毎年三月末日限り、一九三万五〇〇〇円宛分割払いの約束となっているところ、その支払いが一切なされていない。

③ 原告は、貸付金債権の代物弁済として平成六年三月末日付けで英子土地の所有権を取得した。同土地の当時の時価は、一坪当たり、二万円、高くても三万円である。仮に、三万円とすると、同土地の評価は、六六六万七五〇〇円となるに過ぎない。しかも、同土地については、襟裳興産を債務者とし、しんれんなどの根抵当権が設定されているうえ、しんれんの同根抵当権によって担保される債権額は、平成一〇年七月三〇日現在、九二九六万六五四一円に上っている。同根抵当権及び同被担保債権額を踏まえると、同土地の評価は、零に等しい。

右土地の代物弁済は、弁済と評価することができない。

第三  証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載したとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一1  原告は、佐藤興産と襟裳興産とは実質的には一体のものであって、原告の両社に対する貸付については、その貸付限度額についても一体のものと考えるべきであると主張する。

2  ところで、佐藤興産と襟裳興産は、それぞれ独立した法人であるが、原告が主張するように両社の代表者は、平成五年一〇月に襟裳興産の代表者が佐藤から駿河に交代するまでは、いずれも佐藤であって(甲七、八、弁論の全趣旨)、しかも、前記認定したとおり昭和五五年度から平成五年度まで襟裳興産から佐藤興産に対して頻繁にかつ多額の資金流用が行われている(甲三〇)うえ、佐藤興産の決算書(平成二年度)(甲四九)には、襟裳興産からの借入について、その記載が無く、また、昭和六三年七月一日を基準日とする常例検査でも「う回貸付」の存在が指摘され(甲二七、七二)、平成五年度の同検査においても「経営体を分離すれば限度が二倍になる。」旨の指摘(甲九)がなされている。

しかし、佐藤興産と襟裳興産は、別個独立した法人であるところ、証拠(甲七、八、三五の2、四九、七四及び証人大高、被告菊地恭助)及び弁論の全趣旨によれば、昭和五三年三月に襟裳興産が設立された後も佐藤興産は、独立して事業を行い、平成元年、二年当時も事業をかなりの程度展開していたもので、両社のその経理処理も別個独立に行ってきたことが認められるうえ、襟裳興産を含むさけ定置事業は、平成二年度ぐらいまでは、ある程度順調に推移してきたもの(甲七四)であって、しかも、襟裳興産から佐藤興産への融資時期・金額と襟裳興産が原告から借入を受けた時期・金額とは、必ずしも整合性(襟裳輿産が原告から借入した金員を佐藤興産に融資したという関係)をもっていないし(甲一八、三〇)、昭和六三年七月一日を基準日とする常例検査での「う回貸付」に関する指摘は、「法人組合員への貸付金が限度を超えるため、その法人の構成員名義で貸付を実施している、『う回融資』」との指摘であって、佐藤興産と襟裳興産の関係を直接指摘したものでない(甲二七、七二)。また、平成五年度の常例検査での指摘であるが、それは、襟裳興産と佐藤興産の資金の融通関係を原因として、両社を実質的に一体と考えているようであるが、同原因をもって両社が直ちに実質的に一体といえるのか疑問がある。

3  以上のような事実及び事情からすると、佐藤興産と襟裳興産とは実質的には一体のものとまでは、認めることができず、その他、両社が一体との主張を認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の両社に対する貸付については、その貸付限度額についても一体のものと考えることができない。

二1  被告は、貸付利息、立替金、仮渡金などは貸付限度額の制約を受けないところ、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付金の中には、未収利息などから貸付金に振り替えられたものが多数含まれているとして、両社に対する貸付額は、貸付限度額を超過しているのか問題があると主張する。

2  争いのない事実など及び証拠(甲三二)並びに弁論の全趣旨によれば、佐藤興産及び襟裳興産に対する各貸付金のうち、佐藤興産については、未収利息分として四三九万四七八一円(前記貸付限度額を超えた昭和五八年九月二〇日以前のものは、昭和五五年三月二八日の一八八万五八七二円のみ)、立替金として一五二三万一二四六円(合計一九六二万六〇二七円)が貸付金に振り替えられ、襟裳興産については、未収利息分として五八九万五八二四円(前記貸付限度額を超えた平成元年一月一七日以前のものは、ない。)、立替金として一七六〇万四三七五円(前記貸付限度額を超えた平成元年一月一七日以前のものは、昭和六一年一二月二九日の三五二万二六〇〇円、昭和六二年八月二七日の一三九万七九一一円、昭和六三年六月三〇日の六一六万二五〇〇円、合計一一〇八万三〇一一円)(未収利息分及び立替金の合計二三五〇万〇一九九円)が貸付金に振り替えられたことが認められ、それ以上のものが貸付金に振替えられたことまで認めるに足りる証拠はない。

3  そうすると、未収利息などから原告に対する貸付金として佐藤興産及び襟裳興産から振替えられた貸付金は、佐藤興産において、合計でも一九六二万六〇二七円に過ぎず、そして、右振替金額及びその時期からすると前記貸付限度超過時期及びその時点以降同限度額を超過している。また、襟裳興産においても、合計で二三五〇万〇一九九円に過ぎず、そして、右振替金額及びその時期からすると前記貸付限度超過時期及びその時点からそれほど遅くない時期に同限度額を超過している。

右のとおりであるから、被告の右主張は、理由がない。

三  争いのない事実など及び証拠(甲一五の1、2、二二、二七、三三ないし三六、七二、証人北村和也、同谷家正法、同大高耕二、被告小室、同草野、同吉田、同菊地恭助、同菊地勝彦)並びに弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

1  原告は、佐藤興産及び襟裳興産に対し、以下のとおり不正な貸付を行ってきた。

(一)(1) 貸付限度額を超える限度超過貸付を行ってきた。

なお、佐藤興産に対する貸付限度額を超えたのは、昭和五八年九月二〇日付け貯金担保貸付名目で二〇〇〇万円と一四〇〇万円の二口の貸付が実行された以降、途切れることなく平成五年九月末日まで継続されている。

襟裳興産に対する貸付限度額を超えたのは、平成元年一月一七日付け貯金担保貸付名目で一五〇〇万円の貸付が実行された以降、途切れることなく平成五年九月末日まで継続されている。

(2) 平成五年五月ころ、開催された理事会で佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付限度額を超える限度超過貸付が問題となり、その中で話し合いがなされたが、それまでは、右貸付限度を超える個々の超過貸付について、理事会に報告されたり、議題として問題となったりしたことはなく、また、監事らに対しても被告小室及び同草野並びに原告の職員らから両社に対する不正貸付について、報告されていない。

(3) 佐藤興産に対する貸付額が貸付限度を超過した後、佐藤興産に対する貸付額が五〇〇万円を超える場合やそれを超えない場合にも、理事会の承認を回避するため、担保となる貯金がないにもかかわらず、それあるように装って(貯金担保貸付の形態をとったり、一回の貸付額を引当の担保預金額を除いて五〇〇万円を超えないようにする。)内部処理がなされていた。遅くとも、谷家正法が手形貸付を担当していたころからそれ以降、北村を含む別紙職員表記載の手形貸付を担当していた職員らが虚偽の内容を記載した(担保がないのに有るようになど)貸付伺いを作成するなどして、佐藤興産に対する貸付がなされることが多かった。また、襟裳興産に対する関係でも、襟裳興産に対する貸付額が五〇〇万円を超える場合やそれを超えない場合にも、理事会の承認を回避するため、担保となる貯金がないにもかかわらず、それあるように装って(貯金担保貸付の形態をとったり、一回の貸付額を引当の担保預金額を除いて五〇〇万円を超えないようにする。)、手形貸付を担当していた同職員らが右同様の虚偽の内容を記載した貸付伺いを作成するなどして、襟裳興産に対する貸付もなされることが多かった。

(二) 佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付に当たっては、貯金担保貸付名目の貸付がほとんどであったが、その際、担保に相当する備荒貯金が存在していなかったにもかかわらず、右のとおり虚偽の貸付伺いを作成して、あたかも貯金担保貸付額以上の備荒貯金が存在するかのようにして貸付が行われてきた(甲一五の1、2)。

(三) 佐藤興産及び襟裳興産に対する手形貸付において、貯金担保貸付の名目が採られているが、その裏付けとなる貯金がなかったにもかかわらず、五〇〇万円を超える手形貸付を行う場合(①一回の貸付金額が五〇〇万円を超えるもの、②短期間のうちに繰返されたもので二口以上に分散しているが、実質的には一体の貸付と認められるもので、その合計額が五〇〇万円を超えるもの、例えば、襟裳興産に対しては、昭和五九年一月三一日、信用資金貸付として、五〇〇万円、三〇〇万円、二七〇万円、三〇万円の四口の貸付が行われているものなど)には、理事会の承認を得る必要があるにもかかわらず、理事会の承認を得ないまま貸付が実施された。

2  備荒貯金は、事故や災害に備える貯金で、組合員が原告をとおして売上げ(生産)をした都度、その売上額の三パーセントを天引きし、その天引額を備荒貯金に振替えて蓄えるもので、その性格から、自由には下ろせないものであった。

ところで、備荒貯金などを担保として貸付をした場合、各組合員毎の個別のホルダーがあって、その中に貸付金台帳とともに貸付にあたって徴した手形、担保となる貯金が記載されている貯金通帳、貯金の証書、そして、担保差入書などがともに入れられて保管されていた。

3  信用部長は、原告の信用部門の責任者として、昭和五九年ころのみならずそれ以降も手形貸付などの融資を担当する信用部の職員と同じ部屋で執務をし、融資に関して問題などがある場合、職員から直ちに相談などを受けたり、また、自ら問題と考える貸付などについて、担当職員に尋ねたりするような状況であった。

被告草野は、信用部長当時、貸付に関して問題がある場合などには、担当職員に尋ねたり、更に、当時参事であった被告小室に対して相談をしていた。同小室は、参事ないし専務理事として、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付限度額を超える貸付などの不正貸付について、両社を倒産させないという理由などから、理事会にほとんど諮ることなく、事務方の最高責任者として、その貸付を容認してきた。

4  監査は、原則として年に四回(業務監査の場合もあり、会計監査の場合もある。)行われてきたが、そのうちの会計監査にあたっては、残高資産表の写しの内容を検討して監査の対象となる勘定科目を設定し、それに必要な関係書類を職員から提出させて監査を行ってきた。その際、普通貯金元帳(甲三一)、備荒貯金元帳、定期貯金元帳などの元帳の外、四半期毎に作られていた手形貸付金補助簿残高明細表(甲二二)なども資料としてみることがあった。なお、監事を構成員とする監査会には、参事、各部門の部長も出席している。

被告菊地恭助は、佐藤興産に対する貸付について、貸付額が多額で気がかりになったこともあって昭和六〇年ころ、当時、信用担当の監事であった被告浜波に佐藤興産の貸付について聞いたことがあったが、同浜波から貯金もあり問題ないとの返答を受けている。また、平成元年、二年ころの監査の際、当時、監事をしていた被告渡部に対し、佐藤興産の貸付について、それに見合う備荒貯金があるかどうか尋ねたことがあったが、その際も同渡部から心配ないとの返事を受けている。

同菊地恭助は、平成元年、二年ころ、原告の債権(貯金担保貸付、それ以外の貸付によるものを合わせて)の未収利息が多額に上り、その内、佐藤興産及び襟裳興産の未収利息金も多額に上っていることも知った。そこで、同人は、監事として、理事会に個々の債務者の名前を挙げることまではしなかったが、未収利息の状況を報告し、原告の職員にその回収努力を促したりしたことがあった。

被告菊地恭助ら監事は、平成四年度の年度末監査に当たって、平成五年一月ころ、当時組合員であった大江強に対する貸付が貸付限度超過を含めて問題となったことから、その調査の過程で平成五年三・四月ころ、佐藤興産及び襟裳興産に対する限度超過貸付を含めた不正な貸付の事実を認識し、平成五年五月、両社に対する不正貸付の事実を理事会に報告し、速やかに回収計画を立てて回収を図るように促した。

5  別紙常例検査表記載のとおりの各時期を基準日として実施された常例検査で同表記載のとおりの各内容で原告の固定化債権の問題が指摘された際には、理事会でいずれもその内容が報告され、指摘事項に対してその対応を協議し、同表記載のとおりの内容でその対応事項をまとめたこともあった。しかし、平成五年度の常例検査までは、固定化債権について、その回収などの指摘はあったものの、個々の債務者の名前を挙げ、具体的に不正な貸付内容を挙げてまで指摘されることはなかった。理事会でも、右平成五年五月ころの理事会までは、常例検査の指摘を受けて固定化債権の問題について協議する際、個々の債務者の名前を挙げて協議することはなかった。

理事会では、平成五年五月に開催された理事会で監事から佐藤興産及び襟裳興産に対する限度超過貸付を含む違法貸付の事実について報告がなされるまでは、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付などの個々の貸付について、報告のみならず議論されることはほとんどなかった。

理事らは、平成五年五月に開催された理事会で右のとおり両社に対する限度超過貸付を含む不正貸付の事実について報告を受けたため、理事会で、速やかに被告小室に対し、両社からの債権回収の具体的計画立案の作成などの指示を出した。被告小室は、同指示を受け、同草野の補佐として、両社及び駿河ら襟裳興産の構成員らと交渉を重ねたうえで両社に対する貸付金の回収計画を立て(甲三三ないし三六)、その過程の中で同計画の状況について、順次、理事会の報告している。そして、その交渉の過程の中で回収のため、貯金などとの相殺や船の売却代金からの弁済などの具体的な行動が進められていった。

四  争いのない事実など及び右認定した事実を踏まえて被告らの責任の有無ないしその責任の発生時期について検討する。

1  草野の責任について

(一) 被告草野は、信用部長であったところ、信用部長は、信用部門の責任者であった。ところで、佐藤興産に対する不正貸付の内容及びそれが行われた態様・期間(平成五年まで継続して行われてきた。)は、前記認定したとおりであるところ、同不正内容は、いずれも原告の貸付業務の根幹に係わるもので、そのような不正があってはならないことは当然のことであるが、そのような不正貸付を原告の信用部長などの役職のない担当職員のみで長期にわたって、かつ、継続して行うことは特段の事情でもない限り、考え難い。また、佐藤興産に対する貸付は、そのほとんどが貯金担保名目であったが、前記認定したとおり担保となる貯金が無かったものがほとんどで、しかも、その貸付にあたって、虚偽の貸付伺いが担当職員によって作成されていたところ、被告草野は、信用部長として在籍していた当時、そのような虚偽の貸付伺いを作成していた同職員と同じ部屋で職務を行い、職員とその職務遂行にあたって相談などしていたこと、そして、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付が貯金担保がないのに貯金担保名目で限度超過貸付とともにその後の平成五年五月当時まで特に改められるようなこともなく継続的に行われてきたことを踏まえると、佐藤興産に対する限度超過貸付が生じた当初から、当時信用部長であった被告草野は、佐藤興産に対する限度超過貸付とともに貯金担保がないにもかかわらずそれ有るように装われた貸付の事実を認識のみならず、積極的に容認していたものと推認される。

(二) また、襟裳興産に対する貸付についても、右三1(一)で認定した事実、そして、佐藤興産と同様に襟裳興産に対する貸付も貯金担保がないにもかかわらず貯金担保名目で融資が行われ、それが限度超過貸付とともにその後、特に改められるようなこともなく継続的に行われてきたことを踏まえると、襟裳興産に対する限度超過貸付が生じた当初から、当時信用部長であった被告草野は、襟裳興産に対する限度超過貸付とともに貯金担保がないにもかかわらずそれ有るように装われた貸付の事実を認識のみならず、積極的に容認していたものと推認される。

(三) ところで、被告草野は、佐藤興産に対する限度超過貸付や担保がないにもかかわらず貯金担保貸付名目で貸付をしていたことを認識したのは、昭和六三年末から平成元年初めころと主張し、同被告本人尋問の中でそれに沿う供述をしている(草野調書二七、二八頁)。仮に、被告草野が以下に記載する昭和六三年ころないし平成元年の初めころに初めてそれを知ったのであれば、その問題の重大性(貸付の根幹に触れる問題で、かつ、虚偽書類の作成までなされていた。)からその事実を知った段階でそれに関与した職員の責任を含めて大きな問題として取り上げたと思われるのに、そのような問題が生じたことのみならず同問題を取り上げたことを窺わせる事実は、証拠上認められず、かえって、同草野が限度超過貸付の事実を認識したという右時期以降も同事実の改善策が採られることもなく、従前と同様な態度で引き続いて両社に対する貸付が行われている。以上の事情及び事実を踏まえると、被告草野の右供述は、にわかに採用し難く、その他、右1(二)で認定した事実を覆すに足りる証拠はない。

2  小室の責任について

(一) 被告小室は、参事(専務理事設置前)ないし専務理事であったところ、参事(専務理事設置前)ないし専務理事は、事務方の最高責任者で、職制規定の職務権限表(甲四)にしたがって一定の要件を備えた個々の貸付についても決裁をしたりしていた。ところで、佐藤興産に対する不正貸付の内容及びそれが行われた態様・期間(平成五年まで継続して行われてきた。)は、前記認定したとおりであるところ、同不正内容は、いずれも原告の貸付業務の根幹に係わるもので、そのような不正があってはならないことは当然のことであるが、そのような不正貸付を原告の信用部長及び担当職員のみで長期にわたって、かつ、継続して行うことは特段の事情でもない限り、考え難い。右のような事実に被告小室が信用部長であった同草野から問題のある融資に関して適宜、相談を受けていたこと、同小室が佐藤興産及び襟裳興産に対する不正貸付について、両社を倒産させないなどとの理由があったとしてもそれを容認していたことを総合すると、両社に対する限度超過貸付が生じた当初から、当時参事などであった同小室は、両社に対する限度超過貸付とともに貯金担保がないにもかかわらずそれ有るように装われた貸付の事実を認識のみならず積極的に容認していたものと推認される。

(二) ところで、被告小室は、佐藤興産に対する限度超過貸付や担保がないにもかかわらず貯金担保貸付名目で融資をしていたことを認識したのは、昭和六三年末から平成元年初めころと主張し、同被告本人尋問の中でそれに沿う供述をしている(被告小室調書一八頁)。仮に、被告小室が昭和六三年ころないし平成元年の初めころに初めて限度超過貸付などの事実を知ったので有れば、その問題の重大性からその事実を知った段階でそれに関与した職員の責任を含めて大きな問題として取り上げたと思われるのに、そのような問題が生じたことを窺わせる事実は、証拠上認められず、かえって、同小室が右超過貸付の事実を認識したという時期以降も同事実の改善策が採られることもなく、従前と同様な態様で引き続いて貸付が行われている。以上の事情及び事実を踏まえると、被告小室の右供述は、にわかに採用し難く、その他、右2(一)で認定した事実を覆すに足りる証拠はない。

また、被告小室は、限度超過貸付を知った後、それを継続した理由として原告や他の組合員に与える影響の大きさから佐藤興産や襟裳興産を倒産させることができなかった旨供述する(小室調書二三、二四頁)。確かに、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付を直ちに停止したり、また、直ちに債権の回収を図ったりすると、両社を倒産させる危険性が高く、仮に、両社あるいはいずれかでも倒産させるとしたら、原告や組合員に多大な影響が及ぶことが予想されたが、被告小室が限度超過貸付などの違法な貸付事実を認識した時期は、佐藤興産、襟裳興産のいずれにあっても、同事実が生じて間もない時期であって、したがって、違法な事実状況を改善することを意識して貸出し、回収をしていたならば両社に対する倒産の危険性などの程度もより少なく、後記のような多額なものとはならなかったことは容易に推認される。したがって、被告小室の融資継続に対する右供述も限度超過貸付を継続したことを正当化させる理由となるものでない。

3  監事らの責任について

(一) 争いのない事実など及び証拠(甲二二、七二、被告菊地恭助)並びに弁論の全趣旨によれば、同菊地恭助ら監事は、監査の中で道の常例検査報告書を見ることもあって、道の常例検査の中で固定化債権の問題が指摘された当初から同検査の中で固定化債権の問題が指摘されていることを認識していたこと、会計監査に当たっては、備荒貯金元帳、定期貯金台帳、手形貸付金補助簿残高明細表(甲二二)などの帳簿類を見ていたこと、そして、その際、原告の佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付額は、多額に上り、そのほとんどが貯金担保貸付であると認識していたこと、同菊地恭助ら監事は、平成四年度末の決算監査を行うに当たって、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付が貸付限度を超過していること及びその貸付(貯金担保貸付)に当たって担保となる貯金がなかったことを認識したことが認められる。ところで、同菊地恭助ら監事は、昭和五九年以前から監査規則に従って四半期毎に監査を行っているところ、監査にあたっては、監査の重点項目を設定してその業務・会計の各監査にあたってきた。

(二) 監事は、毎事業年度(毎年四月初めから翌三月末日まで)に二回(実際は、四回)、原告の財産及び業務執行の状況が適切に行われているかどうか、監査(会計監査、業務監査)をしなければならないところ、同監査に当たって調査の対象となる事項と関連する資料を見ることができたこと、特に会計監査に当たっては、備荒貯金元帳や手形貸付金補助簿残高明細表などの会計帳簿などの資料を見ることができたこと、そして、常例検査で固定化債権の問題が何度も問題とされてきたこと、そして、佐藤興産及び襟裳興産の貯金担保名目とする手形借入金額がその貸付限度を超えた時期ないしそれ以降も借入額が他の組合員に比して極めて高額に上っていたこと、借入金に対する未返済額の利息が高額に上っていたこと、両社に対する貯金担保の引き当てであった備荒貯金の性格(原告をとおした売上げの三パーセントを備荒貯金として組み入れる。)からして、その貯金額が右貯金担保名目の貸付額に相当する貯金額があるとまで考えにくいこと、また、同菊地恭助ら監事らが右(一)で認識していた事実関係を総合すると、同菊地恭助ら監事(但し、被告渡部を除く。)が少しの注意を払って、両社に関係する部分の貸付元帳、そして備荒・定期貯金の各元帳などの資料を見れば、両社の手形による借入れについて、その貸付限度額を超過したときからそれほど間もない時期(遅くとも、それぞれ超過した年の毎年三月末に行われる期末監査の際)に貸付限度を超過していたことないし貸付に当たって担保となる貯金がなかったことを容易に把握できたものと推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。ところで、被告菊地恭助は、前記認定したとおり佐藤興産に対する貸付について、貸付額が多額で気がかりになったこともあって昭和六〇年ころ、当時、信用担当の監事であった被告浜波に佐藤興産の貸付について聞いたことがあるところ、同事実は、同菊地恭助及び同浜波が遅くとも、同時点ころ、佐藤興産に対する不正貸付の事実を気付くことができたことを裏付けている。次に、同渡部であるが、昭和六三年五月に監事に就任しているところ、同就任時期に右認定した監事の職責、監査の内容、その際の資料、佐藤興産及び襟裳興産の右借入状況などの事実及び事情を総合すると、佐藤興産の手形による借入れにつき、遅くとも昭和六三年度の期末監査の際(平成元年三月末日)には、貸付限度を超過していたことないし貸付に当たって担保となる貯金がなかったことを容易に把握できたものであって、また、襟裳興産の手形による借入については、その貸付限度額を超過したときからそれほど間もない時期(遅くとも、貸付限度を超過した平成元年の三月末に行われる期末監査の際)に貸付限度を超過していたことないし貸付に当たって担保となる貯金がなかったことが容易に把握できたものと推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。ところで、同渡部は、平成元年、二年ころの監査の際、同菊地恭助から佐藤興産の貸付について、それに見合う備荒貯金があるかどうか尋ねられたことがあるところ、同事実は、同菊地恭助及び同浜波が遅くとも、同時点ころ、佐藤興産及び襟裳興産に対する不正貸付の事実を気付くことができたことを裏付けている。

(三) ところで、被告菊地恭助ら監事は、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付が貸付限度額を超えていること及び貯金担保貸付においてその担保となる貯金が不足していたことを知ったのは、平成四年度の会計監査をした平成五年四月であった旨主張しているが、仮に、その主張のとおりの時期に同不正貸付の事実を知ったとしても、監事としての右職責などからすると、右3(二)で認定したとおりの時期に不正貸付の事実を認識し得べきであって、それを前提として監事の責任が生じるとするのが相当である。

4  理事(被告吉田、被告小室を除く)らの責任について

(一) 証拠(被告吉田、同菊地恭助、同菊地勝彦)及び弁論の全趣旨によれば、理事らは、平成五年五月の理事会で被告菊地恭助ら監事から佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付金などについて、具体的な報告を受け、両社に対する貸付が貸付限度を超過していること及びその貸付に当たって担保となる貯金がなかったことを明確に認識したことが認められる。

(二) そこで、理事ら(被告吉田、被告小室を除く)が佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付が貸付限度を超過していたこと及び貯金担保名目での貸付にあたって、担保となる貯金がなかったことを認識することができた時期について検討する。

ところで、専務理事を除いた理事(代表理事の組合長も含む。)らは、非常勤であって、同人らが貸付業務に関与するのは、理事会においてそれに関する議決権を行使するときであること、しかし、被告小室ら両社の貸付に直接関与していた原告の職員らは、両社に対する貸付に関して、被告小室が被告吉田に対して後記のとおり話をしたほか平成五年五月の理事会で両社に対する不正貸付が問題として取り上げられるまで理事らに対して、両社に対する貸付の話をしたこともなく、原則として、毎月開催される理事会で両社に対する貸付について個別に協議されたこともほとんどなかったことを総合すると、被告福島ら理事ら(被告吉田、被告小室を除く)が佐藤興産に対する貸付額が貸付限度額を超過して間もない時期に限度超過貸付の事実や貯金担保名目の貸付にあたって担保となる貯金がなかったことを認識し得たとまで認めることができず、その他、同時期に認識し得たと認めるに足りる証拠はない。なお、被告同飯田、同幌岩は、佐藤興産に対する貸付額が貸付限度額を超過して間もない昭和五八、五九年当時、前記認定したとおり理事に就任していなかったものであるから、その時期を前提にしてその認識を問題とすることができないことはいうまでもない。

そこで、原告らが主張する常例検査での固定債権の問題であるが、確かに、昭和五九年度の常例検査で固定化した債権の回収について、指摘を受けているが、その債権の内訳は、購買未収金を除くと、漁業経営維持安定資金などのいわゆる消極的対策資金に関するものであって、佐藤興産らに対する貯金担保貸付が具体的に問題とされてなかったことからすると、右常例検査での指摘からそれを検討するうえで直ちに佐藤興産に対する限度超過貸付の事実とともに貯金担保名目の貸付にあたって担保となる貯金がなかったことまで認識し得たとまで証拠上認められるのか必ずしも明かでない。また、昭和六一年一〇月を基準日とする常例検査で貸付金のうち、固定化した債権について、その種類(手形、証書)、人数、金額を指摘したうえその保全と回収について、指摘を受けているが、その指摘の内容(特に、金額)と当時の佐藤興産に対する貸付債権額からすると、佐藤興産に対する貸付金は、同指摘の対象になっていなかったことが窺え、特に、貯金担保による貸付は、同指摘事項の対象とはなっていなかったことが窺われる。そうすると、右昭和六一年度の常例検査の指摘からそれを検討するうえで直ちに佐藤興産に対する限度超過貸付の事実とともに貯金担保名目の貸付にあたって担保となる貯金がなかったことまで認識し得たとまで証拠上認められるのか必ずしも明かでない。そして、昭和六三年一〇月を基準日とする常例検査で貸付金のうち、固定化した債権について、貸付金、未収利息など一〇億円を超える固定化した債権の存在とともに決裁権限に抵触しないようにするため、短期間に同一目的の資金を数回に分割して貸付ている例、そして、備荒貯金など通帳を担保とする貸付にあたって、担保差入れ証や当該貯金通帳などを必ず預かるよう指摘を受けているところ、そのような指摘内容は、佐藤興産の多額に上っていた未収利息金、理事会での承認を回避するため佐藤興産に対して短期間に分けて資金の貸付をしていること、そして、佐藤興産に対する貯金担保名目とする貸付との間で関連性があり、そのことに関して、理事会において、職員らに調査を命じたり、また、調査にしたがって具体的に検討、協議をしていたとすると、佐藤興産に対する限度超過貸付に事実とともに貯金担保名目の貸付にあたって担保となる貯金がなかったことまで認識し得たと考えられる。ところで、右昭和六三年一〇月を基準日とする常例検査の指摘事項について、別紙常例検査表四の指摘事項に対する理事会の回答のとおり同年一一月二五日の理事会で回答をしているが、仮に、佐藤興産に対する貸付に関して右指摘事項に沿って具体的に検討、協議されていれば、同日開催の理事会ないしそれに引続いて開催された理事会で佐藤興産に対する不正貸付が問題となり、その後の措置などを含めて協議などがなされ、したがって、被告小室、同吉田、同幌岩を除く理事であった被告らは、いずれも同各理事会に出席していたところ、その時期ころ、佐藤興産に対する限度超過貸付に事実とともに貯金担保名目の貸付にあたって担保となる貯金がなかったことまで認識し得たと考えられる。

そうすると、遅くとも、同常例検査の指摘事項について協議した昭和六三年一一月二五日の理事会の時期ないし同年一二月末日ころまでには、その当時理事としての地位にあった被告ら(被告吉田、同小室、同幌岩を除く)は、佐藤興産に対する右不正貸付の事実を認識し得たと推認され、同事実を覆すに足りる証拠はない。

また、理事としての地位にあった被告ら(被告吉田、同小室、同幌岩を除く)は、襟裳興産に対する不正貸付の事実について、佐藤興産に対する不正貸付の事実を右認定した当時認識していたとすると、その当時ないしそれ以降、佐藤興産に対する不正貸付と同様の貸付があるのかどうか見直しがなされたり、そのような不正貸付が生じないようにするための方策などが具体的になされた可能性が高く、佐藤興産と関連性のある襟裳興産に対する貸付について、具体的な注意が払われた可能性が高いので、遅くとも、襟裳興産に対する貸付限度額を超過して間もないころには、その不正を含む不正貸付の事実を認識し得たと考えられる。

(三) 被告幌岩であるが、平成三年五月一三日に理事に就任しているところ、同就任直後の同月二七日の理事会において、同年一月に行われた常例検査での指摘事項(別紙常例検査表六の指摘事項記載のとおりの内容)について報告され、固定化債権の解消について協議(具体的な協議内容は、本件での証拠によっても、必ずしも明かでない。)されているが、同就任時期ないしその協議から直ちに、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付限度超過の貸付及び貯金担保不存在の貸付の事実を認識することが可能であったとまで認定することができず、その他、同人が佐藤興産及び襟裳興産の不正貸付について、その後平成五年五月の理事会で議題となって協議されるまで、両社に対する貸付限度超過貸付などの不正貸付を認識し得たとまで認めるに足りる証拠がなく、かえって、同年五月に佐藤興産及び襟裳興産に対する不正貸付について協議されるまで理事会で協議されたことが無かったことからすると、同不正貸付を認識できなかったことに責められるべき点はないと考えられる。

そうすると、同幌岩に対する原告の本件請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないといわざるを得ない。

5  被告吉田の責任について

(一) ところで、被告吉田であるが、同人は、組合を統括する組合長であったが、貸付金に関する具体的な職務・職責内容は、本件での証拠によるも、代表者でない理事らとそれほど異なる内容まで認めることができず、したがって、他の理事らの職務・職責内容と特段の相違を認定することができない。

したがって、被告吉田も他の理事ら(被告小室を除く。)と同様、遅くとも、同常例検査の指摘事項について協議した昭和六三年一一月二五日の理事会の時期ないし同年一二月末日ころまでには、佐藤興産に対する右不正貸付の事実を認識し得たもので、同事実を覆すに足りる証拠はない。

また、襟裳興産に対する不正貸付の事実を認識し得た時期についても、他の理事ら(被告小室を除く。)と同様の時期にその事実を認識し得たものと認められる。

(二) 被告吉田に関連して、被告小室は、「理事会に諮らなければならない貸付について、吉田組合長に相談したことがあり、その際、同組合長は、『最終的には理事会にかけるんだな。』という話があったが、ほとんど理事会にかけていない。」旨供述している(小室調書六三、六四頁)。仮に、被告小室が同供述内容のとおり、同吉田から理事会にかけるよう言われたとすると、特段の事情でもない限り、同小室が同指示にしたがって理事会に議案として上程すると思われるが、前記認定したとおり、平成五年に佐藤興産らに対する貸付が問題となるまで、貸付規程上、理事会の承認を得るための貸付議案が理事会に上程されたことはほとんどなかったことからすると、同供述内容に沿う話が平成五年ころまでに被告吉田に対してなされたものか、必ずしも認めることができず、仮に、そのような話がなされていたとしても、そのような話がなされた時期については、被告小室の供述によっても必ずしも明かでない。また、被告小室は、貸付について協議をした際、被告吉田がその協議に加わったことはほとんどないが、一、二回はある旨供述する。(小室調書九五頁)が、同供述内容によっても同吉田が協議に加わった際の貸付の協議内容のみならず加わった際の時期についても必ずしも明かでない以上、同供述内容をもって同吉田が不正貸付について、認識し得た時期を前記認定した時期より遡って特定することはできない。その他、前記認定した時期までに被告吉田が佐藤興産に対する不正貸付の事実を認識し得たとまで認めるに足りる証拠はない。

五  そこで、原告に生じた損害について検討する。

1(一)  争いのない事実など及び証拠(甲三三の1ないし3、三四の1ないし3、三五の1ないし4、七四、七六、七七の1ないし17、証人田村)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告の佐藤興産及び襟裳興産に対する平成五年三月三一日当時の貸付金額及び未収利息金額は、以下のとおりである。

① 佐藤興産

a 貸付金額 定期見返り

二八七〇万円

貯金担保

三億三九九九万五七八〇円

合計 三億六八六九万五七八〇円

b 未収利息

二億五三〇〇万九二九二円

② 襟裳興産

a 貸付金額 定期見返り

二三五七万円

貯金担保

一億六九九六万円

着業 八七四二万円

信用 一五〇〇万円

合計 二億九五九五万円

b 未収利息六八三一万三一二〇円

(2) 原告は、平成五年五月の理事会で佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付限度超過貸付などの不良貸付並びに両社に対する貸付額が多額に上り、その回収に問題があることが議題になり、協議されたことから、両社から以下のような内容で債権回収を図ることになった。なお、佐藤興産及び襟裳興産と原告との間で相殺ないし弁済される対象は、貸金元金に充当することで合意がなされた。

① 両社及び佐藤ないしその妻らがそれぞれ原告に対して有している貯金との相殺

② 減船補償金との相殺

③ 佐藤興産が北島漁業に売船する代金の一部から弁済充当

④ 本件ガソリンスタンド営業権を譲渡担保で取得

⑤ 今後襟裳興産の構成員としてさけ定置漁業を行う者(駿河ら)に対する資金貸付を行い、同貸付資金をもって両社に対する弁済に充当

⑥ 佐藤興産及び襟裳興産の原告に対する出資金との相殺

⑦ 英子土地の代物弁済

(3) 原告は、債権回収に問題のある債務者について、その問題の大きさ(回収困難性)に応じてA・B・C・Dの四段階に分類して管理しているところ、佐藤興産は、最も問題が大きいとされるD分類で、襟裳興産は、B分類に属している。

(4) 襟裳興産は、現在も従前と同様さけ定置事業を行っているが、佐藤興産は、ガソリンスタンドと商事部(漁業資材に扱い。)の事業を行っているが、その経営に息詰まっている状況で、その債権を回収することが困難な状況にある。

(5) 原告は、佐藤興産及び襟裳興産から前記回収計画に従って両社らが原告に対して有していた貯金などとの相殺により弁済を受けているが、佐藤興産及び襟裳興産から同回収計画以外での弁済は、後記のとおり一部はあるものの現在までほとんどなされていない。

(6) 原告は、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付金債権を担保するため、平成五年一二月三一日当時、佐藤興産及び襟裳興産などから土地、建物などの担保を取り、同一一年六月三日現在もそのほとんどである別紙担保設定状況一覧表記載のとおりの担保を取得しているが(甲七六、七七の1ないし17)、同各物件には、しんれんの先順位の担保(ほとんどは、極度額が一億円又は八〇〇〇万円)が付いている。

2  そこで、以上の事実を踏まえ、本件で問題となっている弁済について判断したうえ、原告の佐藤興産及び襟裳興産に対する現状の債権額を検討する。

(一) 駿河秀雄外一一名らに対する貸付による弁済について検討する。

(一)①証拠(甲三三、三四の各1ないし3、三五の1ないし4、三七の1ないし11、七五、七六、証人駿河、同田村、同川村、被告小室、同草野)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

a 駿河外一一名は、襟裳興産を佐藤から引き継ぐこととして、襟裳興産及び佐藤興産が当時原告に対して負っていた借受金債務の一部を肩代わりすることになることを理解し、平成五年九月三〇日、それぞれ二七〇〇万円(ただし、松岡茂樹は、原告の組合員でなかったため三〇〇万円)を同日付け定期償還金員借用証書(いずれの借用証書にも同人らの印鑑登録証明書が添付されている。)により原告から借受けをし(甲三七の1ないし11)、同借受金をもって佐藤興産及び襟裳興産などの借受金債務(内訳・佐藤興産分一億一八〇〇万円、襟裳興産分一億六二〇〇万円)の支払いにそれぞれ充てた(但し、同支払いにあたっては、原告と駿河らとの間で現実に金員のやりとりがなされたわけではない)。

b 駿河らが右金員の借受契約をするにあたって、それまで襟裳興産の構成員であった者のうち、一名は、今後、襟裳興産の構成員となることを辞めたこともあって、同契約を結んでいない。

c 右借受契約を原告との間で結ばなかった右一名と佐藤を除く襟裳興産の構成員であった駿河らは、草野ら原告の職員から佐藤興産及び襟裳興産の原告に対する借受金などの返済計画を示され、その際、平成一〇年以降、自分らが引き継ぐことになった襟裳興産のさけ定置などの水揚げから支払うことで了解していた。

d ところで、原告構成員らのさけ定置漁業における漁獲数量・水揚金額・単価・襟裳興産の漁獲数量・水揚金額・単価は、別紙さけ定置漁業における魚価の推移記載のとおりであって、駿河ら及び当時駿河らと右交渉をした原告の理事を含めた職員らは、それまでの襟裳興産の漁獲数量・水揚金額・単価から、右返済計画にしたがった返済は、可能なものと認識していた。

e 原告から右借受けをした駿河らは、襟裳興産との間で平成五年八月二五日付け(なお、同年九月七日付け確定日付有り)及び平成六年一二月三〇日付け(なお、平成七年一月四日付け確定日付有り)各覚書の中で同人らが原告から借受した金員を襟裳興産が借受し、同人らが同借受した金員を襟裳興産が定置漁業の水揚げ代金から原告に責任をもって弁済する旨記載されている。

② 右aないしeで認定した事実を総合すると、駿河らが原告から借受の意思を持って右借受けた金員合計二億八〇〇〇万円を襟裳興産が同人らから再度借受、同金員をもって佐藤興産及び襟裳興産に対する二億八〇〇〇万円(内訳佐藤興産一億一八〇〇万円、襟裳興産一億六二〇〇万円)弁済にあてられたと推認され、同事実を覆すに足りる証拠はない。

(2) ところで、原告は、駿河らの右金員の借り入れについて、名義を使用しただけで、その実体がない旨主張する。しかし、従前襟裳興産の構成員であった者のうち、一名は、自発的に同借受契約を結んでいないうえ、駿河らは、原告からの右借受けにあたって、襟裳興産などの借受金債務を弁済することを理解し、同借受けにあたって作成された定期償還金員借用証書の債務者欄ないし連帯保証人欄に自ら署名捺印し、それぞれの印鑑登録証明書を原告に提出しているうえ、その返済についても、自らが引き継いだ襟裳興産の水揚げから返済を予定していたものであることからすると、単に名義を貸したものに過ぎないとはいえない。そして、駿河も本件の証人尋問の中で、佐藤興産及び襟裳興産の負債を一部肩代わりすることを承諾し(駿河調書三五頁)、駿河が署名捺印した右証書について「借用証書」であることを理解したうえ作成し(駿河調書三一、三二頁)、しかも、同借用証書作成当時、駿河らが引き継いだ襟裳興産の水揚げから十分その支払が可能だと認識していた旨(同調書三三、三四頁)証言するところ、同証言内容も原告の右主張と矛盾するものとなっている。したがって、原告の右主張は、認めることができず、その他、同主張を認めるに足りる証拠はない。

また、原告は、原告全体においても、襟裳興産においてもさけ定置網における漁価は、昭和五三年度をピークに減少傾向にあり、平成四・五年当時の襟裳興産の漁価を基準にしてもそれ以前からの漁価低落傾向から、駿河らの返済が不可能となることは十分予測できたものであって、同人らからの回収を含む回収計画は、被告らがその責任を回避するため作成したものに過ぎないと主張する。確かに、原告全体においても、襟裳興産においてもさけ定置網における漁価は、昭和五三年度をピークに減少傾向にあるが、平成六年度以降の漁価の単価は、平成五年度以前のそれと比較すると、急激な低価を示しているところ、駿河ら及び当時駿河らと右交渉をした原告の理事を含めた職員らの前記認識(それまでの襟裳興産の漁獲数量・水揚金額・単価から、右返済は可能なものと認識していた。)からすると、右急激な低価を予測していなかったことが推認され、同予測しなかったことをもって責任があるとまでいえないものと考えられる。証人田村も当時の襟裳興産のさけ定置の水揚げ高から判断すると、駿河らが肩代わりした金額は、弁済不能な金額ではなかったと思う旨(田村調書三九、四〇頁)述べ、現在その支払いが難しくなった大きな要因として、価格が予想を超えて下落したことが考えられる旨(同四〇、四一頁)述べているが、その証言からも原告の右主張は、認められない。

(3) そうすると、駿河らが佐藤興産及び襟裳興産の債務を一部肩代わりしたことは、原告からの積極的な要請があったとしても、駿河らの自由意思に基づくものであって、しかも、それが原告との合意に基づくものであることからすると、有効な行為といわざるを得ない。したがって、同肩代りによって原告の佐藤興産及び襟裳興産に対する債権相当額は、消滅している以上、同債務相当額をもって原告の損害として計上することができない。なお、現状においては、駿河らないし襟裳興産において同引き受けた債務を弁済する資力(襟裳興産のさけ定置からの水揚げによる弁済見込)が、仮になかったとしても、それは、原告が同債務の肩代りを承認した際の見込み違いに過ぎず、それをもって駿河らか弁済を受けた相当の金額が本件での原告の損害として残っていると認めることはできない。

(三) 次に本件ガソリンスタンドによる弁済の有無について検討する。

(1) 証拠(甲三三の1ないし3、四六、六六、証人田村)によれば、以下の事実が認められる。

① 原告と佐藤興産とは、平成五年八月九日付け(同月一三日付けの確定日附がある。)で譲渡担保契約書(甲四六)を作成している。同証書には、以下のような約定を含む記載がある。

a 佐藤興産は、原告に対し、原告から借り入れている手形債務三〇〇〇万円を担保するため、本件ガソリンスタンドを譲渡担保に供し、その引渡しをした。

b 佐藤興産は、本件ガソリンスタンドを原告から無償で借受ける。

② そして、原告と佐藤興産との間において、平成六年三月付けで右三〇〇〇万円については、毎年三月末日限り、平成七年三月を一回目として以後平成二二年三月まで一九三万五〇〇〇円宛支払う旨約束している。

③ 本件ガソリンスタンドの所有権は、原告を含め第三者に移転することは、その手続きなどから困難な状況となっている。

(2) 被告らは、本件ガソリンスタンドの代物弁済によって原告の佐藤興産に対する三〇〇〇万円の債権が消滅した旨主張する。しかし、右認定した事実からすると、同主張を認めることができず、かえって、同ガソリンスタンドに関する譲渡担保の約定書の存在及びその作成時期、そして、同譲渡担保によって担保された被担保債権が存在し、それに関する弁済約定の記載のある覚書の存在及びその作成時期からすると、同代物弁済が存在していないことが強く窺われる。

また、同ガソリンスタンドの所有権を原告に移転することは、困難であって、その換価も難しいことからすると、譲渡担保権の実行によって債権の回収を図ることも困難な状況で、同譲渡担保によって担保された三〇〇〇万円の債権は、未だ回収されていないといわざるを得ず、その回収が困難な状況である。

(四) 次に英子土地による代物弁済についての検討する。

(1) 証拠(甲三五の3、四七、四八、六九、七〇、七七の14、15、証人田村)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

① 原告が英子土地の代物弁済を受けた平成六年三月当時、同土地の時価評価は、高くてもおよそ坪単価三万円ぐらいであったにもかかわらず、同土地には、しんれんを債権者とし、襟裳興産を債務者とする限度額二〇〇〇万円と八〇〇〇万円の根抵当権(別紙物件目録一記載の土地は、両方、同目録二記載の土地は、前者の根抵当権のみ)が設定され、同根抵当権によって担保される債権も平成一〇年九月当時、一億円を超えていた。

② 原告は、英子との合意に基づき、佐藤興産の九〇〇万円に相当する債務の代物弁済として平成六年三月一八日、英子土地の所有権を取得し、それによって帳簿上の処理としては、佐藤興産に対する九〇〇万円の債権を消滅させている。

(2) 以上のような事実関係からすると、同土地の価値は、ほとんどなかったに等しいと言わざるを得ない状況であった。しかし、原告は、英子土地の所有権を取得し、それをもって佐藤興産に対する九〇〇万円の債権を消滅させている。ところで、原告の損害の主張は、原告の佐藤興産に対する債権の存在を前提として、同債権の回収の困難性を理由とするものであるところ、右のようなほとんど価値がないものをして九〇〇万円に相当する債権の代物弁済として取得したことの当否は、別として、同代物弁済によって佐藤興産の原告に対する九〇〇万円の債権が消滅している以上、同九〇〇万円の債権の回収の困難性は、問題とならず、したがって、原告の右主張は理由がない。

(五) そこで、貸付元金と相殺ないし弁済充当されることとなったものを基礎として、平成五年九月末当時の佐藤興産及び襟裳興産に対する債権額を計算すると、以下のとおりの債権額となる。

(1) 佐藤興産

①a 貸付金債権額

三億六八六九万五七八〇円

b 未収利息などの債権額

二億五三〇〇万九二九二円

(a、bの合計 六億二一七〇万五〇七二円)

②a 貯金との相殺

三一九二万三二一一円

b 佐藤興産及び襟裳興産の出資金との相殺 二〇〇〇万円

c 漁船売却代金、減船補償金、スクラップ代金の各弁済充当

六〇〇〇万円

d 弁済 二九三万四〇〇〇円

e 駿河ら構成員の引受た額

一億一八〇〇万円

f 英子土地の代物弁済

九〇〇万円

aないしfの合計 二億四一八五万七二一一円)

③ ①aの金額から②の合計金額を控除した金額は、一億二六八三万八五六九円となる。

(2) 襟裳興産

①a 貸付金債権額

二億九五九五万円

b 未収利息などの債権額

六八三一万三一二〇円

(合計 三億六四二六万三一二〇円)

②a 貯金との相殺

三七二六万五八九〇円

b 弁済 七一八万一五八三円

c 駿河ら構成員の引受た額

一億六二〇〇万円

(aないしcの合計 二億〇六四四万七四七三円)

③ ①aの金額から②の合計金額を控除した金額は、八九五〇万二五二七円となる。

3  そこで、原告の佐藤興産及び襟裳興産からの残貸付金債権及び未収利息債権の回収の可能性について検討する。

(一) 佐藤興産からの債権回収の可能性であるが、前記認定した同会社の事業の現状、原告の内部査定で佐藤興産に対する債権の回収困難性は、最も難しいとされるDランクとなっていること、そして、同会社からは前記回収計画にしたがって回収したもの以外一部の弁済はあったが、ほとんどが回収できていないところ、以上の事実からすると、原告の佐藤興産に対する債権は、残貸付債権(一億二六八三万八五六九円)及び未収利息債権(二億五三〇〇万九二九二円)がともに回収が困難であって、同債権額相当の損害が生じているものと推認され、同認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 襟裳興産であるが、襟裳興産からは前記回収計画にしたがって回収したもの以外一部の弁済はあったが、そのほとんどが回収できていない。しかし、襟裳興産は、現在もなおさけ定置事業を行っていること、原告の内部査定で襟裳興産に対する債権の回収困難性は難しいもののBランクとなっていることからすると、佐藤興産よりは回収の可能性があり、襟裳興産が行っているさけ定置事業に改善(魚価の改善など)があれば、少なくともその一部は、回収の見込みがあるものと推認される。そして、前記認定した襟裳興産の現状のさけ定置事業の推移を踏まえると、原告の襟裳興産に対する債権は、貸付債権(八九五〇万二五二七円)及び未収利息などの債権(六八三一万三一二〇円)は、ともに回収困難な状況となっているもののその全てが回収不能とまでは、認めることができず、その他その全てが回収不能とまで認めるに足りる証拠はない。

4 次に右3で認定した損害をもって被告らが責任を負うべき損害といえるのか、被告らが責任を負うべき損害の範囲について検討する。

(一)  被告小室、同草野について

(1)①  被告小室及び同草野は、原告の佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付がその貸付限度額を超過して間もないときからその状況を知り、しかも、同貸付に当たって担保となる貯金がなかったにもかかわらず貯金担保名目で貸付が継続されてきたことを認識していたものであることは、前記認定したとおりである。

②  そこで、被告小室及び同草野が右のような不法な貸付をせず、適切にその貸付限度及び貯金担保の各範囲内で佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付業務(適切な貸付とともに回収を行う。)を行っていた場合、平成五年九月末日当時、どの程度の未回収貸付債権及び未収利息債権が生じていたか問題となる。

ところで、佐藤興産及び襟裳興産の原告からの右認定した貸付限度を超過した多額の借入額からすると、仮に、被告小室らによって両社に対し、適切な右貸付業務執行がなされていた場合、両社ないしいずれかが倒産した可能性もあり、両社ないしいずれかが倒産した場合には、その当時、両社に存在した債権の回収が困難となるばかりか、両社と関係を持っていた原告の組合員にも多大な影響を与えた可能性が高い。また、仮に倒産しないまでも佐藤興産及び襟裳興産の昭和五八年ないし平成五年三月ころまでの業務内容や貸付の申込みの内容・頻度からすれば、平成五年九月末日当時においても両社に対する貸付限度額ないしそれに近い額(平成二年度―平成三年三月三一日までは、八〇〇〇万円、平成三年度―同年四月一日以降は、一億円)の貸付がなされた可能性は高いうえ、仮に、貸付限度の範囲での貸付がなされていたとすると、両社から貯金や出資金と相殺するなどの措置が取られたとしても、少なからず不良債権が発生したことが推認される。なお、この場合、今回のような緊急事態の措置としての襟裳興産を引き継いだ駿河らの債務弁済に対する関与は、なされなかった可能性が高い。

また、両社に対する未収利息であるが、前記認定したとおり(例えば、佐藤興産は、昭和五八年度(昭和五九年三月三一日当時)で、三一二〇万三二二二円、昭和六一年度(昭和六二年三月三一日当時)で一億二六〇六万九四〇七円あり、また、襟裳興産は、昭和五八年度(昭和五九年三月三一日当時)で、二四一一万九二五三円、昭和六一年度(昭和六二年三月三一日当時)で四八一四万〇九四三円、平成元年度(平成二年三月三一日当時)で二八八三万〇七八一円)であって、しかも、仮に、両社に対して右貸付限度額の範囲に止まる貸付がなされていたとしても、争いのない事実及び証拠(甲七八、七九)並びに弁論の全趣旨によれば、同各貸付にあたっては、別紙貸付金利率動向表記載の利率が適用されていた(なお、個々の貸付について、いずれの利率が適用されたか、必ずしも、証拠上明かでない。)ことが認められるところ、同利率の程度及び貸付金の額(貸付限度額に近い額が貸し付けされた。)を踏まえると、仮に、両社に対する貸付がその貸付限度額に止まっていたとしても、少なからぬ未収利息が発生していたものと推認される。また、原告は、両社などから平成一一年六月三日現在、前記認定したとおり佐藤興産及び襟裳興産などから担保を取得しているところ、同各担保にはしんれんによって極度額一億円又は八〇〇〇万円の先順位の担保権が設定されたり(なお、しんれんは、襟裳興産に対し、平成一〇年九月当時一億円にのぼる債権を有している。)しているが、今後の経済事情の変化やさけ定置の魚価の改善などにより担保からの弁済も全く考えられないわけではない。

そして、襟裳興産からの回収の可能性であるが、前記認定した同社の事業状況からすると、困難な状況にあるものの未だ、貸付残債権及び利息債権の債権額全てについて、社会通念上、不能とまでは認めることができない状況にある。

(2)  以上のような事実を総合すると、原告には、前記2(四)に記載した債権額が残存しているが、被告小室及び同草野が原告の佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付に当たって、貸付限度額を超えないよう配慮すること、また、それを超えた場合には、同限度額以内に抑えること、貯金担保がない場合には、貯金担保名目の貸付はしないこと、一回で五〇〇万円を超える貸付をする場合には、理事会に承認を得ることなどの措置を採っていたとしても、右3、4(一)(1)②で認定したような事実及び事情からすると、原告に損害が生じたことは明かであるが、直ちに、その損害額を確定することが困難な状況にあるといわざるを得ない。

そうすると、民事訴訟法二四八条を適用して右2(四)で記載した残存債権額及び以下に掲げる事実及び事情を総合してその損害額を算出するのが相当である。

原告が被告小室及び同草野の佐藤興産及び襟裳興産に対する不正貸付によって被った損害額は、右2(四)で記載した佐藤興産及び襟裳興産に対する残存債権額、そして、右認定した襟裳興産の事業の状況、また、本件での不正貸付がなかったとしても、平成五年九月末日当時、両社に対して各一億円を限度とする範囲でそれに近い額の貸付が行われたと予想されること、両社に対する貸付金の利息は、仮に、同貸付限度内であったとしても、同貸付額及び前記認定した貸付利率からするとかなりの額の未収利息が発生したことが予想されること、原告は、両社などから前記認定したとおり担保を取得していることを踏まえると、その損害額は、八〇〇〇万円とするのが相当である。

(二)  被告菊地恭助ら監事について

(1)①  被告菊地恭助ら監事(但し、被告渡部は、除く。)が少しの注意を払って、両社に関係する部分の貸付元帳、そして備荒・定期貯金の各元帳などの資料を見れば、両社の手形による借入れにつき、その貸付限度額を超過したときからそれほど間もない時期(遅くとも、それぞれ超過した年の毎年三月末に行われる期末監査の際)に貸付限度を超過していたことないし貸付にあたって担保となる貯金がなかったことが容易に把握できたことは前記認定したとおりであり、被告渡部は、佐藤興産の手形による借入れにつき、昭和六三年度の期末決算からそれほど間もない時期(遅くとも、それぞれ超過した年の毎年三月末に行われる期末監査の際)に貸付限度を超過していたことないし貸付に当たって担保となる貯金がなかったことを容易に把握でき、襟裳興産の手形による借入れにつき、その貸付限度額を超過したときからそれほど間もない時期(遅くとも、それぞれ超過した年の毎年三月末に行われる期末監査の際)に貸付限度を超過していたことないし貸付に当たって担保となる貯金がなかったことを容易に把握できたことも前記認定したとおりである。

②  そこで、被告菊地恭助ら監事が右のような不法貸付に気づき、監査などの際に適切にその不法性を指摘していたとすれば、それ以降、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付が適切に行われた可能性が高い。したがって、同被告らによって適切な監査が行われたとしたら、平成五年九月当時、原告にどの程度の未回収貸付債権及び未収利息債権が生じていたか問題となる。

(2)  右3で認定した事実及び事情からすると、原告に損害が生じたことは明かであるが、右4(一)(1)②で認定した事実及び事情を踏まえると、被告小室らと同様、同菊地恭助ら監事の行為によって生じた損害額もを直ちに確定することは困難な状況にあるといわざるを得ない。

そうすると、民事訴訟法二四八条を適用して右2(四)で記載した残存債権額及び以下に掲げる事実及び事情を総合してその損害額を算出するのが相当である。

原告が被告菊地恭助及び同浜波の行為を原因として佐藤興産及び襟裳興産に対する不正貸付によって被った損害額は、同菊地恭助及び同浜波が両社に対する不正貸付の事実を認識できた時期、右2(四)で記載した佐藤興産及び襟裳興産に対する残存債権額、前記認定した襟裳興産の事業の状況、そして、本件での不正貸付がなかったとしても平成五年九月末日当時において、両社に対して各一億円を限度とする範囲でそれに近い額の貸付が行われたと予想されること、両社に対する貸付金の利息は、仮に、同貸付限度内の貸付であったとしてもかなりの額の未収利息が発生したことが予想されること、原告は、両社などから前記認定したとおり担保を取得していることを踏まえると、その損害額は、七〇〇〇万円とするのが相当であり、同渡部の行為を原因とするものは、右被告菊地恭助らで考慮した事実に同渡部が不正貸付の事実を認識できた時期、同当時及び平成五年九月末日当時の両社に対する以下の貸付残高(貸付額から備荒貯金などの貯金額を控除した金額)及び未収利息額を踏まえると、その損害額は、五〇〇〇万円とするのが相当である。

①  佐藤興産

昭和六三年末時点における貸付金残高及び平成元年三月末の未収利息金残高

a  貸付金残高

五億七三九五万二八七二円

b  未収利息金残高

一億一七七七万五一六三円

合計 六億九一七二万八〇三五円

平成五年九月末日時点の貸付金残高及び平成元年三月末の未収利息金残高

a  貸付金残高

三億六八六九万五七八〇円

b  未収利息

二億五三〇〇万九二九二円

合計 六億二一七〇万五〇七二円

なお、貸付金残高は、二億〇五二五万七〇九二円減少し、未収利息は、一億三五二三万四一二九円増加している。

②  襟裳興産

昭和六三年末時点における貸付金残高及び平成元年三月末の未収利息金残高

a  貸付金残高

六五〇四万一七六二円

b  未収利息一二七二万八四〇八円

合計 七七七七万〇一七〇円

平成五年九月末日時点の貸付金残高及び平成元年三月末の未収利息金銭高

a  貸付金額 二億九五九五万円

b  未収利息六八三一万三一二〇円

合計 三億六四二六万三一二〇円

なお、貸付金残高は、二億三〇九〇万八二三八円、未収利息は、五五五八万四七一二円増加している。

(三)  被告吉田ら理事(被告小室、同幌岩を除く。)について

(1)  被告吉田ら理事であった被告ら(同小室、同幌岩を除く。)は、遅くとも、昭和六三年八月に実施された常例検査で指摘された指摘事項について、協議した昭和六三年一一月二五日の理事会の時期ないし同年一二月末日ころまでには、貸付限度額を超える貸付などの右不正貸付の事実を認識し得たことは、前記認定したとおりである。

①  そこで、被告吉田ら理事が右のような不法な貸付に気づき、理事会などの際に適切にその不法性を指摘して、その是正を求めていたとすれば、遅くとも平成元年以降、佐藤興産及び襟裳興産に対する貸付について、不正の是正とともに以後の貸付が適切に行われた可能性が高い。したがって、同被告らによって理事会で適切な協議などが行われたとすると、平成五年九月当時、原告にどの程度の未回収貸付債権及び未収利息債権が生じていたか問題となる。

②  右3で認定した事実及び事情からすると、原告に損害が生じたことは明かであるが、右4(一)(1)②で認定した事実及び事情を踏まえると、被告小室らと同様、同吉田ら理事(被告小室、同幌岩を除く。)の行為によって生じた損害額を直ちに確定することは困難な状況にあるといわざるを得ない。

そうすると、民事訴訟法二四八条を適用して右2(四)で記載した残存債権額及び以下に掲げる事実を総合してその損害額を算出するのが相当である。

被告吉田ら(被告小室、同幌岩を除く。)の行為を原因として佐藤興産及び襟裳興産に対する不正貸付によって原告が被った損害額は、同吉田ら理事(被告小室、同幌岩を除く。)が両社に対する不正貸付の事実を認識できた時期、右2(四)で記載した佐藤興産及び襟裳興産に対する残存債権額、襟裳興産の右事業の状況、そして、本件での不正貸付がなかったとしても平成五年九月末日当時において、両社に対して各一億円を限度とする範囲でそれに近い額の貸付が行われたと予想されること、両社に対する貸付金の利息は、仮に、同貸付限度内の貸付であったとしてもかなりの額の未収利息が発生したことが予想されること、原告は、両社などから前記認定したとおり担保を取得していることを踏まえると、その損害額は、五〇〇〇万円とするのを相当とする。

(2) 被告幌岩については、前記したとおり、債務不履行について、その帰責性が認められないから、同人との関係で損害を考慮することはできない。

六  以上の次第で、主文のとり判決をする。

なお、仮執行宣言は、相当でないから付さないこととする。

(口頭弁論の終結の日・平成一一年七月二二日)

(裁判官 中村哲)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例